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ぱせりさん
ぱせり
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同じ人間の「葬式」で始まり「結婚式」で終わる。逆ではない。同じ人間の、「葬式」で始まり、「結婚式」で終わるんだよ。
ニューヨーク145番通りが観光ガイドに載ることはない。
住んでいる人びとのほとんどは、黒人、ヒスパニックなどだそう。
「ここに住む人の半分は仕事を持っていない。だからみんないつも玄関ポーチにすわるか、なにもしないでただそのへんにつっ立っている」のだそうだ。
この街を舞台にした物語が十。


暴力、麻薬が横行する。警官は、この街に住むだれの味方でも無さそうだ。
ただその場にいただけの人が何かの事件に巻き込まれ、警官に「動くな」と銃を向けられて、「おれにだって人権がある」とうつぶせのままつぶやくのだ。
それでも、『ハーレムの極悪犬』で起こったことに比べれば、まだまし……
『ハーレムの極悪犬』は、ここがどういうところか、ビターに描き出している。


ひどい街、怖い街、と思うけれど、ごく普通の人たちが、ここには、ごく普通に暮らしている。
恋をして、友だちを心配して、喧嘩をして、おせっかいをしたりされたり、説教したりされたり、誰かを助けたり助けられたり、噂に花を咲かせたり・・・どこの町にもあるような話がころがっている。
でも、ほかよりも人々の繋がりが濃いと感じるのは、ここがやはり特別の町だからかもしれない。(仕事はないけれど、時間だけはたっぷり持っているってこともあるし)
なんとかしてやりたいけれど何もできない、と嘆く前に、「そうだ、あの人に相談してみよう」と思い浮かべられる顔がいくつかあるって、いいな、と思う。
たとえ話さなくても(話せなくても)、みじめでどうしようもないときにも、どこかでだれかが、黙って待っていてくれたりもする。
たとえば『アンジェラの目』に出てくる肉屋のロドリゲスさんみたいに
「ときには、とても悲しいことが起きる。忘れてはいけないと思うことでも、たいていは忘れた方がいいもんさ」なんて言って。
あっけらかんとした明るさと、今にもこぼれそうな笑いが、どの顔にも隠れていはしないだろうか。犯罪も理不尽な苦しみも多いこの街に暮らす人々だから、かもしれない。
たとえば、『あるクリスマスの物語』のマザー・フレッチャーが言う。
「生き抜いていこうと思ったら、みんなが正しい行いをすることを期待してただ待ってるなんて、むりなんだよ。期待すればするほど、傷つくものだからね。でも、正しい行いをしてもらった時のために、準備はしておかなくちゃいけない。そうすれば、生き抜いたことがむだでなくなるってもんさ」って。
そして、(驚いたことに)この貧しさの塊みたいな町で、少年や少女は弁護士や医者を目指したりもする。
『ストリート・パーティー』のスクイーズィは言う。
「ある意味、この通りってこうなんだなと思う。ひどいことをするやつもいるけど、たぶん、ほとんどの場合、チャンスさえあれば、まともになれるんだ」
チャンスさえあれば……
たぶん、最低の町なのだろう。でも、ここから、人々のパワーが、最低という言葉を押し上げている。


この短編集の最初の一話も、最後の一話も、わいわいと人が集まる話だ。(たぶん、この本が、人の集まりでできているのだ。)
同じ人間の葬式で始まり、結婚式で終わる。
逆ではない。
同じ人間の、「葬式」で始まり、「結婚式」で終わるんだよ。
作品の並びの粋なこと。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1745 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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この書評へのコメント

  1. ves2017-11-28 07:40

    ぱせりさん、またまたありがとうございます! この本は一編一編が宝箱のようで、訳し終えるのがもったいないと思えるほどでした。気に入っていただけてとてもうれしいです。

  2. ぱせり2017-11-28 08:13

    先行レビューのおかげで、この本を知りましたが、大好きな大好きな本になりました。一編一編が宝箱のよう、ほんとうにその通りです。わたしは、読み終えるのがもったいなかったです。この街の人々の物語をもっともっと読みたかったです。図書館で借りましたが、これは傍らに置いておきたい本でした。(今、書店にて注文中なのです。もうすぐわたしの『ニューヨーク145番通り』が届きます。とっても楽しみです)
    素晴らしい本をほんとうにありがとうございました。この街の人たちみんなみんな大好きです!!

  3. No Image

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