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darklyさん
darkly
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「新宿鮫」シリーズであるが、大沢さんの深見に対する思い入れを感じさせる秀逸なハードボイルド

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

警察は離合集散を繰り返し実体の掴めない外国人犯罪に手を焼いていた。鮫島は外国人犯罪者が絡む盗品市場の捜査を進める中で日本最大の暴力団稜知会の関与を知り、捜査を進めようとするが上から妨害が入る。それは鮫島と同期でありキャリアで順調に出世している香田によるものだった。香田は盗品市場を稜知会にコントロールさせることで外国人犯罪者の把握を行おうとするが当然鮫島とぶつかることになる。

盗品市場は鮫島とは因縁浅からぬ深見の組織であった。深見は中国人女性明蘭(明子)を盗品の鑑定人として育て管理させていたが、明子に稜知会の石崎が近づく。鮫島、香田、深見、石崎の四つどもえの戦いが始まった。

今まで読んだこのシリーズの中でも屈指の面白さでした。警察小説である以上、警察対犯罪者という構図は大前提としてありますが、警察内部での争いや犯罪者同士のせめぎ合い等、一筋縄ではいかない複雑なプロット、そして鮫島はもちろんのこと、同期の香田を始めとして深見や石崎など、立場は違えども自らの信念に基づき決して妥協しないというハードボイルドらしい魅力的なキャラクターが綺羅星のごとく登場します。

中でも私の好きなキャラクターは深見です。ロベルト村上、仙田等複数の偽名を使い、元サクラ(公安の情報部隊)で警察組織に失望して退職し、現在は犯罪組織を率いる人物です。新宿鮫シリーズに何回も登場しましたが、本作でその本名が明かされます。その時点で深見は死んでしまうのだと分かりとても残念に思いました。

深見は冷徹な犯罪者ですが、リーダーシップがあり、自分の部下であった者が亡くなれば、その家族の面倒を見るなど人心掌握に長け、女性に対しても情が深いというとても魅力的な人物です。本来なら盗品市場に警察の手が伸びてきた時点で海外に逃亡するであろう状況判断が的確な彼が、日本に残り自らを犠牲にしてまで警察や暴力団を相手に一人で戦うという決断をしたのは、明子のためでした。

この物語が秀逸なのは、その深い愛を明子は理解していないというところなのです。明子は深見の行動の真意を理解できず、警察に逮捕はされたものの生きていればまだ成功できる。深見のように死ねば負けだと考えます。深見は自分の能力を認めず「花」としてしか見ていなかった。と考えます。

その思いのすれ違いは決して明子がドライな性格だとか中国人だからではないと思います。良い悪いではなくそれは女性ゆえの物事の捉え方の違いなのかもしれません。明子は深見を敬愛していました。深見から求められればそういう関係になっても構わないと思っていました。しかし過去に愛する女性が犯罪に巻き込まれて失くした深見は明子を大切に思うがゆえに深い関係になろうとはしませんでした。それを明子は一人の女として見てくれていないと不満を募らせます。

深見は明子が暴力団から利用されて使い捨てにされるのが見えているだけに、石崎との関係を終わらせようと説得しますが、明子にとってそれは嫉妬としか思えません。それを飲み込んだうえで深見は明子のために賭けに出るのです。いや賭けははなから負けと分かった上で。それは明子が自分の真意を理解していようがいまいが関係ないのです。これこそが大沢さんの考える男の愛なのだろうと思います。この男と女の愛のすれ違いを決して明示的ではなく、あくまでもドライに描き切った大沢さんの力量に感服します。

この物語は鮫島ではなく深見のハードボイルド小説なのです。「容疑者Xの献身」が主人公のガリレオの物語ではなく石神の物語であったように。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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