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薄荷さん
薄荷
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お江戸の元祖・100円ショップ=三十八文屋を営む少女の悩みのタネは、お気楽な兄が仕入れてくる胡散臭い「わけあり品」。
何故ならいつもそれで一騒動が起きて、お瑛がいつも巻き込まれるから。
読みやすいけど、少し苦くもある人情時代小説です。

本書のヒロインお瑛(16歳)が兄・長太郎(22歳)と一緒に営んでいる三十八文屋「みとや」は、食品以外の品なら何でも取り扱うよろずやで、どの商品も三十八文均一。
仕入れは近隣の店で売れ残った季節はずれ商品、半端物、端切れなどを安く卸してもらっているんだけど、仕入担当の兄がときどきどこからか入手してくる怪しげなものが原因で騒動が起きたり、お瑛が妄想で暴走したり(笑)します。
…と書くと、ほのぼの人情時代小説っぽいですが、ただのいい話ではなく人間関係はハード。

主役の兄妹の両親は、かつて日本橋で小間物屋・濱野屋を営んでいたが、文化4年の永代橋崩落事故に巻き込まれて行方不明。絶望的だが遺体を見つけることすら叶っていない。
しかも両親の死後に番頭すら知らなかった莫大な額の借金の取り立てを受け、店屋敷ひっくるめて全て取り上げられて無一文の兄妹は世間に放り出された。
母の幼馴染の料理屋女将や、濱野屋の元手代の助力で、小さいながら「みとや」を開けるまでにはなったけど、お瑛はトラウマで今でも『橋を渡る』ことができない。

そんなお瑛は、色々な困難に出くわしていくのです。
上司に濡れ衣を着せられて藩から追い出された武士のプライド粉々の父と、けなげな息子。
持ち主を狂い死にさせるという噂の呪われた守り刀。
叶わぬ恋の歌が書かれた謎の小皿と、行き違いの恋の結末。
ひょんなことから「みとや」に来た、5年前に亡くなった父が持っていたはずの煙草入れ。
最終的に発覚した濱野屋の借金の原因と、優しかった祖父・父の裏の顔、明るく能天気な兄の抱える苦悩・・・

橋は渡れないけど「猪牙舟」を操って川を駆ける技を身に着けたように、お瑛は理不尽や害意に直面しながら、それでも目をそらさずに必死に立ち向かっていきます。
見た目はかわいいけど、その心は強く勇ましいお瑛がこの本でヒロインを張っているからこそ、ただのイイ話でも暗い話でもなく、辛いことがあってもちょっと前向きになろう!と思えるお話になっているのです。

ところで本題とはズレますが、どうも小売業者としては売値の38文が何円か気になりまして・・・。
時は文化9年で経済的に安定した町人文化花盛り。
それでも江戸時代は日々若干の通貨変動があったようですから、ざっくり丼勘定でいいでしょう。
さて、38文はいくらか・・・?

お話に出てくるものを基準とする場合、手ぬぐいや麻裏草履はピン切りすぎて平均価格がよくわからないので、「かけ蕎麦1杯 16文」が無難でしょうか。
ここで出てくる蕎麦は一般庶民がちょいとたぐる小腹ふさぎと考え、庶民の味方・チェーン店王道の「名代富士そば」さんメニューを覗くと、「かけ蕎麦 300円」(→ 2017年9月現在で消費税8%時の税込料金)
一杯16文=300円で考えると、1文=18.75円
これを基準にすると、38文=712.5円ですから、現代版に考えれば約660円(税別)になりますが、おそらく「そばに対する金銭感覚」はお江戸の方がもう少し安いと思いますから、600円(税込)にしときましょうか。キリもいいし(笑)。

鍋、餅焼き網、植木鉢、枕(箱枕)・・・600円って高くない?と思いきや、ここは江戸時代。
百均ショップ用に機械でガッチャンコガッチャンコと大量生産するやつじゃなく、プロの職人による完全手作りなんだから、かなり安い!
ってことは、完全手作りの煙管、かんざし、櫛、紅入れ、扇って、たとえ素材が立派じゃなくたってめちゃくちゃ安いじゃないですか!うわー!欲しいー!

というわけで、人情もの時代小説がお好きな方には必ずお楽しみいただけると思いますし、その中でも『お買い物好き、安いもの好き、細々したもの好き』な方には、特に強くお勧めします~!

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薄荷
薄荷 さん本が好き!1級(書評数:513 件)

スマホを初めて買いました!その日に飛蚊症になりました(*´Д`)ついでにUSBメモリーが壊れて書きかけレビューが10個消えました・・・(T_T)

読んで楽しい:21票
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この書評へのコメント

  1. トムタン2017-09-27 09:52

    とっても面白そう…

  2. 薄荷2017-09-27 09:54

    >トムタンさん
    とても読みやすくて面白いので、おススメです。

  3. タカラ~ム2017-09-27 11:28

    薄荷さんのレビューを読み終えたら、物欲が湧き上がってきました(笑)

  4. 薄荷2017-09-27 12:17

    >タカラ~ムさん
    ほら、神田古本市もありますし、新刊も出ますし、↓素敵な本屋さん紹介本も出ましたし・・・とりあえず秋は本の入手道を邁進しましょう(^^)v

    あれ?何で↓書影が出ないんだろう…??

  5. oldman2017-09-27 12:56

    ああ…もうお願いだからこれ以上仕入れを増やさないで下さい。売れる(読める!)見込みが無いのに(ノ_-;)ハア…「ご破算…」でなくて破産しそうです。

                            過剰在庫に悩む男より

  6. 薄荷2017-09-27 20:16

    >oldmanさん
    売れる(読める(笑))見込みは将来への持越しということで、とりあえず仕入れておきましょうよ~♡
    大丈夫!赤字(未読本)は来年の経費(積読)に計上しときゃいいですって(^^)v

                                ダメダメ経理より

  7. No Image

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