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かもめ通信
レビュアー:
文芸誌に手を出すとキリが無いから、普段は避けて通るのだけれど、これはやっぱり読まなきゃと意を決して発売前に予約したのは正解だった!
「早稲田文学」が作家の川上未映子の責任編集で“女性”の特集すると聞いたとき
正直にいうと私は首をかしげた。

文学が国境を越えるという時代
今なお女と男を隔てる壁があるというのだろうか。

いや、私にもわかっていたのだ。
“女流文学”や“女流作家”という言葉こそ使われなくなったかもしれないが
良きにつけ悪しきにつけ
「女性が書く」ことも「女性について書く」も
「人が書く」や「人について書く」こととは
違った受け止めをされがちだということは。

けれどもここであえて「女性」を特集するということは
その違いを肯定することになるのではないか。
果たしてそれはいいことなのだろうか。

そう思いつつも、
アディーチェロクサーヌ・ゲイなど豪華執筆陣に惹かれて手にした本書は、
なんと500ページを優に超え、
この一冊で立派に自立するだけでなく
寝落ちが危険きわまりないボリュームだった。

あれやこれやと気になる作品はありつつも
まずは編集方針を確認しておこうと巻頭言を読み始めて
私の気がかりは杞憂に終わったことを知る。
当たり前と言えば当たり前のことなのだろうけれど
もちろん、いろいろなことを考えた上でのこの特集なのだ。

そうと知ったからには安心して、読み進めることが出来るとばかりに
あちこちに飛びながら拾い読みし始めると
詩あり、短歌あり、俳句あり、小説あり、エッセイあり、
対談あり、座談会あり、論考あり、図版ありと
実にバラエティに富んでいる。
(豪華執筆陣については、 書誌情報の詳細欄に載せておいたので、
興味をもたれた方はそちらを参照してみて欲しい。)
その全部を味わい尽くすことは到底できそうにないし、
ものすごく興味深いものから
正直あまり食指の動かないものまでいろいろあるが、
それでも、この充実ぶりには感嘆せざるを得ない。

中でも気に入ったものを幾つか紹介しておくと

ルシア・ベルリン著/岸本佐和子訳「掃除婦のための手引き書」(短編小説)
……正直岸本さんが手がける翻訳物は作品に癖がありすぎて苦手なものも多いのだが、これは面白かった。この人の作品をこの訳者でもっと読みたい!

多和田葉子著/松永美穂訳「空っぽの瓶(ボトル)」(エッセイ)
……実を言うとものすごく苦手な作家さんなのだけれど、「おれ」「ぼく」「あたし」「わたし」にまつわるこのエッセイはすごく好き。もしかして翻訳物だから??

ヴァージニア・ウルフ著/片山亜紀訳「ロンドン散歩--ある冒険」
……一本の鉛筆に熱い恋をしたことのあるひとなんて、たぶんいないだろう。
こんな書き出しで始まる短編小説のようなエッセイが面白くないわけがない!

盛可以著/河村昌子訳「経験を欠いた世界」
……中年の女性作家がたまたま列車に乗り合わせた若者に性的衝動を感じてしまう~という話だと言うと、ちょっと引かれてしまいそうだけれど、全く嫌らしくなく、後味も悪くない。
著者の才能を感じさせる短編。

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著/くぼたのぞみ訳
「イジェアヴェレへ--あるいは十五の提案に込めたフェミニストのマニフェスト」

……やっぱりいいね!アディーチェ!!
「生まれた赤ちゃんをフェミニストに育てるにはどうしたらいいか?」という友人の問いに応えるという形で語られる論考。
これ、コンパクトな本になったら、出産祝いに片っ端からプレゼントしまくりたい!
女の子だけじゃない、男の子にも。お母さんだけじゃない、お父さんにもお薦め!!

柴田英里「いつまで“被害者”でいるつもり?--性をめぐる欲望と表現の現在」
……いやいやこれはすごいものを読んでしまったなあ!
過激で刺激的で挑発的!
いやそれは言い過ぎでは?と思う部分もあるけれど、あれこれと考えさせられ、読み応え十分だった。

小澤英実+倉本さおり+トミヤマユキコ+豊崎由美/司会斎藤美奈子
 「われわれの読書、そのふたつの可能性~批評と書評~」

……私は滅多にプロの書評家の書評を読まないのだけれど、人気書評家の方々がどのような考えに基づいて書かれているのかを知り、ものすごく勉強になり、いろいろ考えさせられた。やっぱりプロはすごいわ。いろんな意味で。
「あらすじ」書きをはじめ読者書評に関するあれこれも、批評をめぐるあれこれも非常に参考になった。
確かに女性の批評家は少ない。鋭く切り込む批評をもっと読みたくもある。

とにもかくにも、非常にバラエティに富んだラインナップなので、“女性”に興味があるかないかは脇に置いても、本好きなら誰でもきっとどれかしらアンテナにひっかかるはず。
どこかで見かけたらぜひ手に取ってみることをお薦めしたい。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2017-10-30 05:45

    川上未映子さんの巻頭言、
    ただいま早稲田文学編集室WBにて公開中です。
    http://www.bungaku.net/wasebun/magazine/index.html

  2. No Image

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