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efさん
ef
レビュアー:
サルと人間を分けるもの/京都の夜を猿とヒトが駆け抜ける
 2026年10月26日、京都で突然『暴動』が勃発しました。
 いや、これは『暴動』と言って良いものなのか……。
 人々が突然互いに殺し合いを始めたのです。
 それも素手で。
 武器になりそうな物を持っている者もいましたが、何故かそれを捨てて素手で殴り合い、蹴り合い、咬みつき、殺し合うのです。

 一体何が起きたのか誰にもわかりません。
 何らかの細菌によるパンデミック?
 しかし、回収された死体を検査してもそのような兆候は一切見つけられません。
 制圧に入った警察官まで互いに殺し合いを始めました。
 しかし、拳銃を持っているのに、誰もそれを使おうとはしません。

 しかも、しばらくすると騒乱はぱったりと止まってしまうのです。
 その時間、およそ8分20秒。

 本作は、このような非常に不可解な『京都暴動』と共に、時間を前後してKMWP(京都ムーンウォッチャーズ・プロジェクト)と称される類人猿の研究施設での研究が描かれます。
 施設長は31歳の日本人、鈴木望。
 彼は、AI業界を突然引退した天才的人物のダニエル・キュイにスカウトされ、京都に建設されたKMWPの所長に就任した男でした。
 ダニエルは、莫大な資金を投じ、霊長類研究その他の関連分野の科学者をヘッドハンティングし、KMWPに集結させていたのです。

 KMWPでは、チンパンジーの中でも優れた知能を示す個体を飼育し、観察し、その能力を伸長させようとしていました。
 そのKMWPに、アンクと名付けられることになる一匹のチンパンジーが新たにやって来ました。
 アンクは、これまでどのチンパンジーも成し遂げることができなかった課題を楽々と解いたのです。

 そもそも、人間は何故これだけの知能を得られたのか。
 途中まではチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンと同じ根っこにいたはずなのに、そこから何が原因で人間が分岐したのか。
 それをKMWPは研究していたのです。
 そして、行きついた一つのヒントは『鏡』でした。
 もう一つ、ある遺伝子情報。

 本作は、京都で起きた『暴動』とKMWPで行われていた研究とのかかわりをコアに、壊滅的状態に陥ってしまった京都を救おうとする望たちの行動が緊迫したテンポで描かれていきます。
 ドライな語り口は本作に大変よく合っており、また、挿話的に語られるナルキッソスとエコーの物語なども効果的に用いられています。
 また、バルクールを身につけた人間とチンパンジーが、夜の京都の町を疾走するシーンは幻想的ですらあります。

 いやぁ、日本のSFも素晴らしいではありませんか。
 私も、飛浩孝ら、注目している日本のSF作家がいますが、この作品を書いた佐藤究も、これは要チェックだと感じました。

 本作の内容をもう少し詳しくご紹介したいという気持ちはやまやまなのですが、どうぞご自身で読んでその驚きを感じて頂きたいと思います。
 本作は書き下ろしだということですが、なかなかの完成度ですよ。
 今後の作品も楽しみです。


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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4925 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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