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ぽんきち
レビュアー:
大きなものに挑む、小さきものの闘い
池井戸潤の経済小説。
池井戸作品を読むのは、多分、初めてで、映像化されたものも見ていないのだが、売れっ子なのもなるほど納得である。
本作の舞台は銀行だが、業界の裏知識も散りばめつつも、小難しくなく、よい意味でエンタメとしてさくさく読める。個性の強い登場人物たちの活躍ぶりも楽しく、爽快感のある読み心地である。

ドラマにもなった「花咲舞」シリーズの2作目にあたるもの。
シリーズ第1作は『不祥事』(2004)という連作短編集である。これをもとに「花咲舞が黙ってない」のタイトルでテレビドラマが制作された。女優・杏が主役を演じ、2014年・2015年と2シリーズが放映され、なかなかの人気だったようである。
それを受けて、2016年に、花咲舞を主人公として、新たな連作短編が新聞連載の形で発表される。単行本化を飛ばして文庫化されたのが本書である。タイトルはテレビドラマの後追いとなっている。人気番組として人々の記憶にも新しく、また語呂もよかったということだろう。

時代背景は20世紀末で、発表時よりもやや前のことになる。バブル崩壊後、大手ゼネコンや証券会社が破綻したり、銀行が合併して再編成されたりと経済的には大きな事件が相次いだ。「銀行に入れば一生安泰」というような時代ではない。
主人公・花咲舞は、大手の東京第一銀行で「臨店指導」を行う。事務作業等に問題を抱える支店に赴き、問題点を分析して解決に導くのが仕事である。
正義感が強く、曲がったことはズバズバ指摘する舞は、いささか「はねっかえり」とみられていて、上司の相馬には花咲ではなく「狂咲(くるいざき)」と呼ばれたりする。

池井戸は銀行勤務の経歴もあるが、元々、ミステリを愛読していたそうで、本連作でもミステリ風味も大いに感じられる。
銀行が抱える不祥事や不正、その後ろで糸を操る者は誰か、その動機は何か、となれば、これはもうそのままミステリとして成立する。
本連作短編集では、短編ごとに小さな「事件」が起こっていく。だがその背景には、常に、東京第一銀行と別の大手、産業中央銀行の合併計画がある。大きな計画の前に、小さなミスで銀行の評判を落としてはならない。そのために暗躍する者たちもいる。
舞たちは小さな不正と闘いながら、徐々に、銀行に潜む大きな「闇」に挑んでいくことになる。
このあたりの構成も巧みである。

別シリーズの半沢直樹は産業中央銀行に勤めているため、半沢が顔を出すシーンもあり、池井戸ファンの方がより深く楽しめる作品だろう。
とはいえ、特に予備知識がなくても読めるし、巻末の丁寧な解説で背景もわかる。
花咲舞シリーズはさらなる続編の予定はないようだが、数年後に、コロナ禍渦中の銀行を舞台にした小説を著者が書くことがあるのであれば、読んでみたいような気もする。


*なぜ今回手に取ったかといえば、出先で読む本がなくなったためでして(^^;)。田舎の新幹線停車駅、書店はないとしても多少は本は置いてあるだろうと思ったのですが、文庫本は売店の小さな棚に1列、およそ10冊ほどだったでしょうか。うち半分ほどが池井戸作品で、この「花咲舞」1冊と「半沢直樹」4冊。購入した本は2017年9月発行でした。多分、2017年当時からずっとあの場所にあったんだろうなぁ・・・(==)と思うと、なかなか感慨深いものがあります。いやぁ、列車で本を読む人は少なくなってるんでしょうねぇ・・・。

*本作のトリックの1つに、ATMからの300万円以下の現金振り込みを利用したものがあり、2017年現在では10万円以下しか振り込めないという注意書きがあります。オレオレ詐欺の影響ですかね。これはこれで時代を感じて感慨深いです。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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