ぷるーとさん
レビュアー:
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敬虔な家族の息子は敬虔か?
舞台はスコットランド。
地方豪族コルウァン家の領主が結婚した。だが、宗教に対して奔放な領主と極めて敬虔な妻は結婚当初から揉めに揉め、領主の奔放な考え方に同調できない妻は夫と別居し、宗教観が一致する牧師とともに生活を始めた。
そして、この夫婦の2人の息子のうち長男ジョージは父のもとですくすくと、次男のロバートは母の元で狂信的ともいえる宗教観を植え付けられながら成長していった。
溌剌として人望もある兄ジョージ相手に、弟ロバートはことあるごとに宗教論議をふっかけてまわり、兄はそんな弟の粘着的なちょっかいにフラストレーションを溜めていくものの人格者として振る舞い続けた。だが、ついには弟の卑劣極まりない策略にかかって死んでしまう。ロバートは、実の父までも間接的に手にかけて、領主の座に就いてわがまま放題の生活を手に入れる。
この「編者」によるコルウァン家の描写では、敬虔な信仰者であるロバートがなぜ罪を犯し、それを「神に赦されている」かに思っているらしいのはなぜなのかがわからない。結果として弟は悪事が露見しそうになった頃に忽然と屋敷から姿を消し、そこで「編者」パートは終わる。
「告白記」は弟ロバートの一人称で語られる。ロバートは少年の頃から卑劣な行為を繰り返していたのだが、それらはすべて神の名の下に行なわれていた。だが、なぜ、そんなことになったのか。
それは、敬虔な母と義父の二人が過ちばかりの息子に対しての祈りを捧げ、ある時「ロバートは全うせられたる義人の仲間入り」を果たしたと告げたことによる。敬虔なる2人からこう告げられたロバートは、義人である自分の行為はすべて正しい、と思い込んでしまったのだ。
そんな彼の元へ悪魔が近寄って来たのも、当然といえるだろう。悪魔は「義とされた罪人」ロバートを「君の行いはすべて神の思し召しによるもので、この神聖なキリスト教社会を守るためには兄弟殺しや親殺しも正当化される」とそそのかす。ロバートとて、悪魔の言葉にいくばくかの疑問を抱きはした。それでもロバートが殺人を実行してしまうのは、熱くたぎる宗教心がゆえだったのだ。
冷静になって考えれば破滅しか待っていない、とロバートも気づきそうなものなのだが、燃える信念がロバートから正しい視野を曇らせてしまっている。そして、最後には自らの手で命を絶つ。
ロバートの破滅を加速させたのは、確かに悪魔かもしれない。だが、そもそもロバートの誤った認識は、母と義父から告げられた言葉から生じたものだった。
ラストは、再び編者のターンとなり、編者はロバートを「狂信の徒」と語る。ロバートは、敬虔な母親と義父、そして彼の狂信性につけ込んだ悪魔にとってのみ、「義」だった。
だが、母親と義父にしても、本当にロバートを「義の人」と思っていたのか。そうではなくて、「義人の仲間入りをした」と告げることで彼の悪行を牽制しようとしたのではなかったか。何とも皮肉なことだ。
地方豪族コルウァン家の領主が結婚した。だが、宗教に対して奔放な領主と極めて敬虔な妻は結婚当初から揉めに揉め、領主の奔放な考え方に同調できない妻は夫と別居し、宗教観が一致する牧師とともに生活を始めた。
そして、この夫婦の2人の息子のうち長男ジョージは父のもとですくすくと、次男のロバートは母の元で狂信的ともいえる宗教観を植え付けられながら成長していった。
溌剌として人望もある兄ジョージ相手に、弟ロバートはことあるごとに宗教論議をふっかけてまわり、兄はそんな弟の粘着的なちょっかいにフラストレーションを溜めていくものの人格者として振る舞い続けた。だが、ついには弟の卑劣極まりない策略にかかって死んでしまう。ロバートは、実の父までも間接的に手にかけて、領主の座に就いてわがまま放題の生活を手に入れる。
この「編者」によるコルウァン家の描写では、敬虔な信仰者であるロバートがなぜ罪を犯し、それを「神に赦されている」かに思っているらしいのはなぜなのかがわからない。結果として弟は悪事が露見しそうになった頃に忽然と屋敷から姿を消し、そこで「編者」パートは終わる。
「告白記」は弟ロバートの一人称で語られる。ロバートは少年の頃から卑劣な行為を繰り返していたのだが、それらはすべて神の名の下に行なわれていた。だが、なぜ、そんなことになったのか。
それは、敬虔な母と義父の二人が過ちばかりの息子に対しての祈りを捧げ、ある時「ロバートは全うせられたる義人の仲間入り」を果たしたと告げたことによる。敬虔なる2人からこう告げられたロバートは、義人である自分の行為はすべて正しい、と思い込んでしまったのだ。
そんな彼の元へ悪魔が近寄って来たのも、当然といえるだろう。悪魔は「義とされた罪人」ロバートを「君の行いはすべて神の思し召しによるもので、この神聖なキリスト教社会を守るためには兄弟殺しや親殺しも正当化される」とそそのかす。ロバートとて、悪魔の言葉にいくばくかの疑問を抱きはした。それでもロバートが殺人を実行してしまうのは、熱くたぎる宗教心がゆえだったのだ。
冷静になって考えれば破滅しか待っていない、とロバートも気づきそうなものなのだが、燃える信念がロバートから正しい視野を曇らせてしまっている。そして、最後には自らの手で命を絶つ。
ロバートの破滅を加速させたのは、確かに悪魔かもしれない。だが、そもそもロバートの誤った認識は、母と義父から告げられた言葉から生じたものだった。
ラストは、再び編者のターンとなり、編者はロバートを「狂信の徒」と語る。ロバートは、敬虔な母親と義父、そして彼の狂信性につけ込んだ悪魔にとってのみ、「義」だった。
だが、母親と義父にしても、本当にロバートを「義の人」と思っていたのか。そうではなくて、「義人の仲間入りをした」と告げることで彼の悪行を牽制しようとしたのではなかったか。何とも皮肉なことだ。
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- 出版社:国書刊行会
- ページ数:286
- ISBN:9784336055354
- 発売日:2012年08月01日
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