もちろん、短編でも数々の傑作を残しており、日本編纂の本書で、それが確認できます。全部で13作収められていますが、特に印象的なものを紹介します。
●『運命のボタン』
ある夫婦のアパートの入口に「届け物」が置いてありました。妻がそれを開けてみると、「小さな木箱が中にあり、押しボタン装置が取り付けられて」おり「ガラスのドームがボタンにかぶせて」ありました。そのドームははずそうとしても、びくともしません。木箱の底には「午後8時、スチュワードという者がお伺いいたします」と書かれた紙が貼ってありました。実際に、その男がやって来て、夫と共に応対したのですが、彼はドームを開ける鍵を渡して、こんなことを言います。
「ボタンをお押しになりますと、世界のどこかで、あなたがたのご存じない方が死ぬことになります。あなた方には5万ドルが支払われます」
さぁ、この話の結末は?最後の一行アンソロジーの資格十分です。
●『針』
憎くて仕方ないテレーゼを殺そうとして、相手の髪の毛を手に入れて、ヴードゥーの呪いをかけたミリセントは、結局どうなったのでしょうか。これも、最後の一行アンソロジーの資格十分です。
●『魔女戦線』
全員が16歳以下の7人の美少女が、「P.W.センター」という建物で仲良く暮らしています。外は荒れ模様で、烈しい雨が降っていました。そして、数百名の重装備をした兵士たちが、センターに向かって進んでいたのです。
原題は"Witch War"、「戦線」より直訳の「戦争」の方が良かったように思います。
●『チャンネル・ゼロ』
とある分署で、15歳の少年が、二人の刑事から取り調べを受けているという状況で、話が進みます。そして、次第に、少年の家族に何か異常なことがおきたことが明らかになっていくのです。ラストは、ブラッドベリの最も恐ろしい短編小説『十月のゲーム』を連想させます。
●『戸口に立つ少女』
「ドアの向こう側にいたのは、少女が一人。白い絹のドレス姿です。黒い長い髪をしていて、両肩にかかるほどのびていました。肩はとても華奢でした。少女は両手を顎の下にあてて、しっかり握っています。そしてにっこりと微笑みました。彼女はいつも、とても礼儀正しい少女でしたよ。
『ねえ、おばちゃま』少女が言いました。『おばちゃまの家の子と遊んでいいですか?』」
礼儀正しく、かわいらしい少女だからといって、家に招き入れてはいけないという話です。これだけでもネタバレですが。
●『子犬』
未亡人のサラの生きがいは、一人息子デイヴィーでした。ただ、息子が病弱だと思い込んでいるため、異常ともいえる過保護でした。そして、ある日、息子が望んでいるのに禁じていた子犬が家に現れます。
サラの隠されていたグレート・マザーが、次第に表に現れてくる描写が怖いです。
●『四角い墓場』
ボクシングを人間が行うことが禁止された未来社会、リングで闘うのは人間そっくりのロボットでした。ロボットの最新のものはBー7型でした。主人公のケリーも、かってボクサーでしたが、今はBー2型を連れて、整備士のポールとドサ廻りをしています。昔は大活躍したロボットも旧式となり、試合を組むのにも苦労しています。そんな状態ですから、ケリーには金がなく、満足に修理費を捻出することができません。ようやく決まったB-7型相手の試合のために、ケリーとポールは食事もロクにとらないで、試合場にやってきますが、直前になってロボットが致命的な故障を起こしてしまいます。ポールが止めるにもかかわらず、ケリーは自分がロボットのふりをして、リングに立つことにするのでした。
過去の栄光が忘れられず、絶望的な闘いに挑む男というテーマの作品です。
●『二万フィートの悪夢』
スティーヴン・スピルバーグが制作したオムニバス『トワイライト・ゾーン』(1983年)の一話として映画化されました。悪天候の中で飛び続ける飛行機に乗っていた主人公が、ふと窓の外を見ると、何者かが翼の上でエンジンを壊そうとしているのを見つけ、パニックになりますが、誰も彼のいうことを信じないという、奇想天外な話なのですが、逆にそれゆえに印象に残る作品でもあるのです。
さて、収録作のうち、7作はショートショートと呼べる長さで、6作が通常の長さの短篇小説なのですが、切れ味という点では、当然かもしれませんがショートショートの方が上回るようです。ちなみに、ここで紹介した作品のうち、『戸口に立つ少女』までがショートショートです。マシスンは短篇でも達人であることが分かる一冊です。




「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
この書評へのコメント
- ef2024-04-16 06:07これも面白そう! 思わず地元図書館の蔵書検索してしまった! ない(しくしく)。 
 でも、教えてもらったので書肆データは頂きました。後で図書館にリクエストかけるには十分でありあます。
 
 私、hackerさんのレビュー好きだな。過去に書いていただいたレビュー本を借りてきて読んだら、まあ、凄いこと!(この本は1・5~2か月後くらいにupできたらな~と思ってます。最高で一日一冊に留めて順番にupしているので結構溜まっちゃって……)。
 
 一日一冊レビューでも多すぎるかもしれないと、思う。
 だって、読む側だってそれは……ですよね。
 昔はそうでもなかったのだけれど、今は一日一冊レビューがかなり多い。
 みんな読めているのだろうかと、自分もそれをやっているのだけれどちょっと心配しています。
 もう少し、落ち着いてもいいのかもしれませんね。考えてみます。
 
 
 これからも良いなぁと思っちゃう本のレビューをお願いします。
 私は、hackerさんのfanなので、是非、是非。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- hacker2024-04-16 08:11efさん、長いコメントありがとうございます。私は思ったこと、感じたことを好き勝手に書いているだけなのですが、励みになります。ただ、気に入った本は、なるべく多くの人の興味を惹くような文章を書くことを意識しているので、「まあ、凄いこと!」と言われるのは嬉しい限りです。どの本か気になりますが、レビューを楽しみにしています。 
 
 ところで、レビュー投稿数の話が出ましたが、私は、現在は一週間に5冊か6冊あげることにしていて、二週間か三週間続けたら、一週間休むというペースでやっています。時折、新規参入の方がいきなり大量投稿することがありますが、でもそうすると、読む側はとても全部読む気にならなくて、かえってマイナスでしょう。efさんのように、ストックをためておいた上で、一日一冊ぐらいなら、問題ないと思います。
 
 私も、efさんのレビューも楽しく読んでいます。ここちこそ、これからもお付き合いください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- かもめ通信2024-04-17 06:25レビューの投稿数についての話題に便乗しますが、早く昇級したいなど、新規参入の方が大量投稿する気持ちもわからなくはないんですよね。 
 でも結局hackerさんがおっしゃるとおり、大量投稿されると読む気になれず、投稿した方は全く反応がなくてつまらないとか、新参者に冷たいとかいう風に思われてしまって。そうかといって大量投稿はやめたほうが…とアドバイスすると、先輩風吹かせて…となってしまったりと悪循環で。
 悩ましいところです。
 
 私は元々ストックがないこともあって、週3、4冊→週2冊→週1冊(イマココ!)という具合にどんどん投稿数が減ってきているのですが、その分、これが良かった!という本をご紹介できたらいいなあと思っています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- ef2024-04-17 07:04あまり多くレビュー・アップするのはもったいないと思うんですよねぇ。せっかく書かれても結果的に読まれなくて、さほど反応していただけないことになるかと。 
 
 レビュー書いただけで5Pというのが過大で、大量UPを誘発している面もあるんじゃないかなぁと思うんです。極端なことを言えば、まったく内容を伴わないようなレビューだって、出せば5Pですからねぇ。
 
 新規参入された方はその位もらわないととても追いつけないということなのかもしれませんが、上の方の人もそれなりに書いていますから、そういう問題でもないかと。
 せめてレビュー得点は3点くらいが良いのかなぁとも思っています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- hacker2024-04-17 10:14かもめ通信さん、「先輩風吹かせて」などと言われると辛いですね。でも、コミュニケーションって、双方で取る気がないと取れませんから、仕方ないのでしょうね。言われたことをアドバイスととらえるか、注意若しくは批判ととらえるか、これはその人次第ですから。 
 
 私はストックをためる方だとは思っていないのですが、速読派(手抜き派?)のこともあって、お休みをいれて二週間で6~8冊ぐらいのペースで消化している感じでしょうか。絵本とか児童文学とかが入ると、もう少しペースが上がりますが。
 
 なんせ私の大テーマは、畏れ多くも「20世紀の小説」ですから、いろんなジャンルや年代や国をランダム・アクセスしている感がありますが、気に入った本は、拙文を読んでくれる人に興味を持ってもらえるようにとは心がけています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- ef2024-04-17 16:09ごめんなさい。訂正です。私が「まあ、凄いこと!」と書いた本はまだhackerさんはレビューされていませんでした。hackerさんがレビューされたシリーズ本の中の一冊なのです。 
 私はhackerさんのレビューを読ませていただいて、「こんなに面白そうなシリーズがあるんだ!」と触発され、律義にシリーズ一巻目から読み始めたのです。
 
 いやあ、凄い本でありまして、このシリーズを教えてくださったことに感謝です。でも近隣図書館には蔵書がなくて、東京都立図書館から借りて来てくれました(お手数をかけて申し訳ない)。このシリーズの次の本も読みたいんだけれど、またお手数かけてしまいそう。
 買おう! これ、良いシリーズなので近隣図書館の皆様、これ、買いましょう!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
 - コメントするには、ログインしてください。 
- 出版社:早川書房
- ページ数:458
- ISBN:9784150412135
- 発売日:2010年03月26日
- 価格:882円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。








 
  
 













