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Jun Shinoさん
Jun  Shino
レビュアー:
さまざまな思いが入っていそうな、日本のディストピア的作品。
全米図書賞の翻訳部門受賞作品。多和田葉子は野間文芸賞の「雪の練習生」で学識豊かで、大衆小説的ではない物語を書く人、という印象があった。また熊が主人公でややかわいらし系のイメージも持っていたこともあって今回はちょっとびっくりした。

表題作の異質な世界の設定は、収録作「不死の島」に説明されている気がするので、勝手にそういう前提にしてあらすじ。

2011年の福島原発事故以降、日本は鎖国政策を取り、外国語の使用を実質禁止、政府は民営化された。老人は元気になり、子どもは歩行や食事が困難なほどの不健康な身体になっている。


作家の義郎は曾孫の小学生・無名を1人で育てている。義郎世代は元気だが無名を含む子どもたちはうまく歩くことが難しく、果物ジュースを飲むのにも15分かかるほどうまく食べることができない。鎖国となってしまった日本では外国語を使うと逮捕される恐れがあり、言葉の意味を問い直すことも多く、トイレは厠、ジョギングは駆ければ血圧が落ちる、ということから「駆け落ち」と言われている。産地は「made in japan」が解釈され、岩手産は「岩手まで」と書くようになった。

東京の土地は価値が下落し、都心の大型ビルにもはやビジネスマンの姿はない。果物など農作物の産地は活気があり、移民となる者が多い。義郎の娘の天南(あまな)は大学から九州に移り住み帰ってこない。娘が出て行ってから妻の鞠華も別居し、列車を何度も乗り継ぐほど遠い場所で子供のための施設を経営している。

天南のドラ息子、飛藻(とも)は生まれたばかりの息子・無名を置いていなくなり、義郎が育てることになった。無名は学校の教師に、密航して外国に行く「献灯使」候補として目をつけられる。

世界がその名を知った「フクシマ」。原発事故以降の日本と世界を劇的に変えている。首都TOKYOは活気がなくなり、暗澹とした廃墟のようなイメージさえ漂う。散歩という言葉が死語になったり、突然変異は差別的だとして環境適合、に取って代わられたり、なかなか蜜柑などが入手しにくくなっていたり。とかくヘンな世界。

ユーモラスでおもしろい気もするし、ねじれたようなおかしなブレイク、唐突な終了もまた風変わりなかまし方で嫌いではない。心から楽しむには修行が足らないかな。

うーん、やっぱりフィリップ・K・ディックとか、クリストファー・プリーストとか山尾悠子とかの色合いを考える。

世界の話題としてのフクシマにかけて、おかしくなってしまった日本を、大胆にアメリカ的なディストピアSF風にして、日本固有の社会的情報を入れたユニークな作品、そんな受け止め方をされたのだろうか。ふーむ。。

多和田葉子は日本でもたくさん賞を取っていて、泉鏡花文学賞なんかさもあらんと思ってしまう。日独双方で評価高そう。もう少し、読んでみようかな。

漢字遊びが官能的な「韋駄天どこまでも」など、他の収録作も興味深かった。
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Jun  Shino
Jun Shino さん本が好き!1級(書評数:1370 件)

読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。

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