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sawady51さん
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働き方改革なんてイカサマ。これが日本の労働現場最前線だ。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

働き方改革なんてイカサマだ!日給1300円、交通費ピンハネ、3ヶ月間無給、徹夜12時間労働――これは現代の奴隷!?派遣・非正規で働き続けた、東大卒・元アナウンサーによる衝撃の徹底潜入ルポ。これが日本の労働現場最前線だ。

アベノミクスの果実は存在するのか
アベノミクスの効果ということか、日本の雇用情勢は良好に推移しているというのが、2014年頃から3年ほど続く厚労省(厚生労働省)の見解だ。有効求人倍率は36ヶ月連続で1倍以上。失業率は先進国の中で最低の3%。総務省も完全失業率が21年ぶりに200万人を下回ったと発表した。日本の労働者はまことに恵まれている‥‥はずだが個人消費は2015年から2016年にかけて12ヶ月連続で前年比減。ハローワークは閑散としているはずなのに、実際は安定した定職を求める非正規で夕方から大混雑している。

実感と違うこの数字は、統計数字が間違っているわけではない。統計の取り方が違うのだ。ILO(国際労働機関)やOECD(経済協力開発機構)の基準に準拠し、総務省統計局が約四万世帯を対象とし毎月行っている。しかし、失業者の定義は「すぐ働ける状態にあり、求職活動をしていて、全く働けなかった人」なので正規非正規問わず、短い時間でも働けば、すぐ辞めても失業者とカウントされない。それに加え、僕のように就職を諦めた人は労働者と認められないのでこれもカウントされない。実態を正確に把握するには、正規で働きたいが非正規に甘んじている人や、就職を諦めた人も失業者にカウントするべきだ。すると政府にとって不都合な失業率が明らかになるだろう。

実質的な失業率は16%!
確かに、この数年、有効求人倍率は高くなっている。が、それは採用側が条件(年齢や性別、キャリア等)をかなりきつく絞り、それに合う人材が来るまで求人告知を出し続けているから、という面もあることを見逃すべきではない。求人案件は事務職は少なく介護や飲食業が多い。どちらも正社員には30歳以下の若者層を求めるが、低賃金や一部で過酷労働のイメージがあり、正社員への応募者はあまり多くはないだろう。

主にサービス業で人出不足が深刻で介護や飲食では非正規がメイン。一度非正規で雇われると、正社員登用ありという謳い文句にひかれ非正規で雇われたとしても、ほとんどが正社員にはなれない実情がある。僕が面接に行った100円ショップの面接では、正社員として面接に行ったのに、「これも何かのご縁だから」などと言い非正規雇用を勧められた。そんなバカな話はないと断ったが、これが現在の、サービス系企業のスタンスだといって間違いないだろう。正社員雇用をちらつかせ非正規を募る、なんともブラックな求人広告だ。

実態に迫った政府統計もあるにはある。2014年の総務省・労働力調査だ。不本意非正規を331万人と算定したものだ。また、就職せず求人活動も全くしていない非労働人口のうち、実際は就業を希望する人は419万人。これらの潜在的失業者を合わせると750万人となり、これに完全失業者236万人を合計すると986万人となる。実に、実質的な失業率はおよそ16%となる。

若者の憧れを逆手に取った劣悪な労働環境
2010年4月、アパレル業界を取材した際、若い女性たちに人気の渋谷のファッションビル109の店員から驚くべき話を耳にした。彼女たちの休憩は業務用階段の踊り場にダンボールを敷いて横たわるのだという。(中略)自宅の帰り着くのは午前0時ごろで、それから食事やシャワー、選択などで床につくのは午前2時過ぎ。睡眠時間は4時間足らずで午前6時起床。きちんとメイクを整え衣服は最新の自社製品で、コーディネートもトレンドに合わせる。8時前は通勤電車の混雑のピークだが、朝礼に間に合うように出勤する。

こういった背景には厳しすぎるファッションビルの退店制度がある。その年ごとの売り上げで、下位20%のの店舗は退去させられる。空いたスペースには順番待ちしていた新たなブランドが入るという具合だ。店長はこの80%に滑り込むべく店員にハッパをかける。そんな店長にも時給1000円以下のアルバイトがいる。店員全員が非正規で自分たちがどれだけブラックな職場で働いているか気づくこともない。労働法規を知らない彼女たちは華やかに見える世界で今日も搾取され続ける。

サラリーマンの処世術
メディアでサラリーマンの処世術を問われると、本書の冒頭にも触れた通り、私はこう答えてきた。「正社員の地位にしがみつくこと。職場での冷遇や退職勧奨、嫌がらせなどは精神的に負担だが、8時間だけ我慢すれば済む。非正規になった場合の毎日24時間のしんどさに比べたらたいしたことではない」

とはいうものの、正社員の経験しかない人間にとっては非正規の苦しさはわからない。仕事を辞め、いざ転職という段階になって、自分には非正規雇用程度のスキルしかないことを思い知る人も。

東大卒の著者が様々な職場に潜入し非正規の実態をつまびらかにした書籍。ひどい場合は給料が支払われず催促したら「金なんか払うわけねえだろ」などと言われた経験なども。非正規、貧困ワーカーの今がわかる徹底潜入ルポ。
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sawady51
sawady51 さん本が好き!1級(書評数:3428 件)

1974年生まれ。統合失調症にかかり仕事を退職後3回の転職を経て、現在無職。近所(溝の口)のカフェでの読書が癒しの時間。政治・経済・社会・人文科学・自己啓発書等を雑食的に読んでおります。

■2016/ 3/26 登録    
■2016/ 6/22 100冊達成
2017/ 6/16 プロフィール画像飽きたので自画像に変えました。
■2017/ 7/26 500冊達成!
■2018/11/16 1,000冊達成!
■2019/ 3/26 登録から3周年になりました。これからも宜しく!
■2019/ 6/ 4 1,200冊達成!
■2019/12/23 1,400冊達成!
■2020/7/6 1,600冊達成!
■2020/10/16 1,700冊達成!
■2021/5/6 1,900冊達成!
■2021/8/16 2,000冊達成!
■2022/3/10 2,200冊達成!
■2022/9/25 2,400冊達成!
■2024/5/21 3,000冊達成!

ブログもやってます。興味のある方は下記のサイトへどうぞ!
『51Blog』http://sawady51.com/

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この書評へのコメント

  1. オレンジ犬2017-08-12 11:01

    仕事はあるけれども正規雇用がない。

    終身雇用、新卒一括採用が変わらない限り、企業も正規雇用はしにくいという事情もあり、いいとこ取りの難しさも感じます。ときどき、自分は若い人の可能性を潰している?と思うこともあります。

    以前はパートすら厳しい、と言う時期もありましたからそういう点での改善はあったかもしれませんからその点は十分でなくても評価できると思います。

    エジプトなど更に深刻な国もありますし、日本がひどいかましかは視点の取り方で変わりそうです。

    何よりは何度でもやり直していきやすい社会になるべきでしょう。

  2. sawady512017-08-12 12:05

    >オレンジ犬 さん
    世界を見れば日本はまだマシだとは思いますが、一度脱線すると元のレールに戻るのが困難な現状もあります。
    何度でもやり直しのきく社会は理想ですね。

  3. オレンジ犬2017-08-12 13:10

    間違えたら、大変が今の停滞でもありますしね。社会と言わず社内でも。

    現内閣を批判するのは良いのですが、ではどうしていかなきゃいけないが見えていないとなぁ。自助でやる、は視界の狭い極論でしかないので公助はどうあるべきをよく考えたいです。

  4. sawady512017-08-12 14:28

    >オレンジ犬 さん
    僕の場合、公助のセーフティーネットに助けられていますが、程度の軽い精神疾患などだとどうしようもない場合も多いようです。
    セーフティーネットで助けられる代わりに、運転免許証を取消にされましたが、幻聴やなんかがあるので文句も言えませんww

  5. オレンジ犬2017-08-12 15:44

    そうなのですか。
    幻聴があるのは辛いですね。たくさんの本をお読みになり、発信できる才能は羨ましいです。

    いろいろ想定すべきことはありますが、知るということ、優先順位をつけること、公平性などは時間がかかりますよね。マイナス評価でなく、もっと良くするにはどうしたら良いかを考えたいです。

  6. sawady512017-08-12 16:09

    >オレンジ犬 さん
    そうですね。何事も前向きに考えたいもんです。

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