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三太郎さん
三太郎
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東京のありふれた街の住民たちのちょっと不思議な物語。
川上さんの2008年発表の短編集を読んだ。実は読むのはこれで二回目なのだが、最初に読んだ時にはこれはいったいどういった短編集なのか分からなかった。というのも川上さんの短編集は全体としての統一感がいつもあったように思えたので。それがこの本では判らなかったのだ。

二回目に読んでの感想は、ちょっと不思議な関係の二人を描いた短編集というものだった。

舞台は東京の新宿から北西に少し離れたありふれた町らしい。11編の短編に出てくるのは様々なこの町の住人だ。とはいえ短編集全体をまとめている登場人物は何人かいる。

最初の小屋のある屋上の語り手はこの町で予備校の教師をしている唐木さんだ(川上さんのキャリアとかぶっているから作者の分身かも)。でも彼女は語り手で、主役はこの町の魚屋のご主人の平蔵さんと、魚屋の最上階の屋上のかたつむりの殻のような小屋に住んでいる、元板前の源さんだ。源さんは亡くなった平蔵さんの奥さんの愛人だった人だ。その源さんは平蔵さんの奥さんが亡くなった後、平蔵さんの魚屋で一緒に働いている。とても不思議な二人の関係について作者はあまり多くは語ってくれない。

どこから言っても遠い町の主人公の男は、子供の頃に魚屋の裏手に住んでいた。今は妻と娘の三人暮らしだが、夫と息子の三人暮しの人妻と愛人関係にある。後その愛人は夫と離婚してしまうが主人公の男は妻と別れるつもりはない。その彼は少年の頃、平蔵さんの奥さんが月夜の晩に家を出て源さんの所に走っていくのを見てしまったのだった。奥さんは亡くなるまで平蔵さんのもとには戻らなかった。

最後のゆるく巻くかたつむりの殻の語り手はもう亡くなってしまっている平蔵さんの奥さんの真紀さんだ。彼女は平蔵さんの幼馴染で、二十歳のころに結婚したが子供はできなかった。そのうち平蔵さんは他所に女をつくった。真紀さんは夫の代わりに町内会の寄り合いに出ている間に板前だった源さんと親しくなったのだった。こうして最初の物語の謎、つまり平蔵さんと源さんの関係が明かされる訳だが、でも奇妙な感じは残ったままだ。

その他、もう20年もくっついたり離れたりを繰り返している板前の男と年上の女将の話や、父親の同棲相手がしょっちゅう変わる男の子と父親の愛人の話や、雨の日の風景を写真に撮るのが好きな若い女性と彼女に写真を撮ってくれとせがむ近所のおばちゃんの話などが収められている。

どんなに平凡そうな町でも、そこの住民がみな平凡な暮らしを営んでいるとは限らないのだろうな。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:826 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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