過去と現在とが何かの形で出会ったり、現在のなかに過去が混ざり込んだりする物語が多く、印象に残っている。
『ゲイルズバーグの春を愛す』『クルーエット夫妻の家』『おい、こっちをむけ』『愛の手紙』など。
時とともにどんどん姿を変えていく街、人の暮らし。その都度、それまで当たり前だった色々なものが過去のものになり、見捨てられていく。そんなに簡単に捨ててきたのか、忘れてきたのか、と自分の身の回りをふりかえっている。
現在に混ざりこんだ過去たちは、何かを訴えようとして現れた幻だ。訴えるべき意志をもったものたちだ。
いたずらに過去を美化するわけではないが、何も考えずに流されていくのはやはり怖いと思う。
「家というものは、それ自身の生命と魂をもっているんだ」(~『クールエイド夫妻の家』より)
『もう一人の大統領候補』が好き。
そこそこ毒もある物語だけれど、何よりもその裏庭が好き。とても危険なことが起きているというのに、その庭に籠っているのは穏やかな朗らかさだと思うし、ここにいる登場人物たちの開かれた関係もいいな。
この作品集に描かれる年代は、おもに1960年代。それを思えば、物語のなかの「現在」はもう、今のわたしにとってはかなりノスタルジックな世界なのだ。今後、そちらから、こちら(2023年)に何かしらのコンタクトがあるのではないか、それとも、既に私が気づいていないだけで何かが起こっているのではないか。そんな気持ちになる。
いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
この書評へのコメント
- ef2023-11-22 09:57あぁ、良い本をお読みになりました。 
 ジャク・フィニィはやさしいよね。抒情的です。
 ぱせりさんの感性に合いそう。
 
 ホセさんが書いている『レベル3』も良いですし、『夢の10セント銀貨』なんていう作品もあります。
 https://www.honzuki.jp/book/25007/review/196629/
 
 ジャック・フィニィ、見かけたら読んでみると良いです。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- ef2023-11-22 11:38初フィニィ。一番良い本から読まれたと思います。 
 時々思うんですよね、その作家さんの本をコンプリートできれば良いのですけれど、それはなかなか難しいこともあって。
 最初に読んだ、その作家さんの本が何だったか? というのは結構大きいかもしれないって、思うんです。
 
 ぱせりさんは絶好のフィニィを読まれました。
 私も他のフィニィ作品をレビューしています。ご紹介した他にも色々ありますよ。
 ホセさんが書いている通り、ちょっとパターンが同じと言えばそうなんですけれど、きっと彼はそこに自分の夢を託したんじゃないかなぁと思えるんです。
 
 今とは違うどこか別の世界。そこに思いを馳せたのがフィニィじゃないかなぁって。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
- ぱせり2023-11-22 12:40efさん、最初に読んだ、その作家さんの本が何だったか。思い当たる本や作家名がいくつもあります。すごくわかります。最初に出会った作品を好きになると、その後の本にさほど惹かれなくても、やっぱりその作家さんは、いつまでも大好きなんですよね。最初の感動を後の本のなかからみつけようとしていたりもして。 
 出会いって大切だなあと思います。
 フィニイにこの本で出会えたこと、祝福していただいたような気持ちで、とてもうれしいです。ありがとうございます。
 フィニイの夢、(もったいないので)少しずつ追いかけていきたいと思います。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
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- 出版社:早川書房
- ページ数:282
- ISBN:9784150200268
- 発売日:1980年11月01日
- 価格:630円
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