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Wings to fly
レビュアー:
苦しきこと多くとも誇り高き英国労働者階級の、ノー・フューチャーな日々を描く。ブレイディみかこの原点、ここにあり。
ブレイディみかこさんは、英国ブライトンに住む福岡県出身のパンクな母ちゃんである。

トラック運転手のお連れ合い、感受性豊かでクレバーな息子君との日々を綴った『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、英国暮らしの現実を生活者の目線で映し出す素晴らしいノンフィクションだった。その続編も良かった。
「あのパンチの効いた文章にもっとボコボコにされたい!」と中毒症状に見舞われたので、デビュー作を手に取ることにした。

「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき。」
英国に渡る時、空港に見送りに来たお父上から渡されたメモにこう書いてあった。はなむけに贈る言葉としての不適切感が半端ないが、それゆえに忘れがたくて本のタイトルになったのかも。

2004年前後の身辺雑記である。ブレイディ夫妻はまだ、息子君を授かっていない。「お前が子供を産んだら、ぶち切れるか過失で、絶対に殺す。」とお連れ合いに言われている。ご自身も「子供には人生における挫折の経験がないから、親に叱られる等々の屁温いことでいちいち泣きやがる。」などと書いている。本物の挫折の経験が促す精神的成長について畳みかけるように語る勢い。ああ、若かったんだね。

そんな彼女が、よんどころない事情で友人の息子(9歳男子)を預かる。なかなか複雑な育ちのA君は「人の痛みを知る」子供だったので、仲良くなる。その彼がいじめられている現場に遭遇し、「こらあ、なんばしよるとか!アンフェアやろうもん!」と(英語で)タンカを切った。その直後、(白人ではない)外人のババアに庇われたことで、もっとからかわれるA君の明日に思いが至る。

「ごめんね」とA君に詫び「一番CHILDなのはわたしだった」と思う。
ここにブレイディみかこさんの原点を見た。とても鋭敏。一生懸命で、正直。何よりも大切に思うのは人の尊厳で、それを損なう奴は許さない。

英国労働者階級の生活は、苦しきこと多く豊かではない。ノー・フューチャーだよ、と彼女は語る。夫の友に我が友に、隣家の不良兄ちゃん。パンク・ロックバンド、愛すべき酔っ払いたち。舌鋒の鋭さと裏腹に、そのまなざしは優しい。語り口はユーモラスで、非常に知的である。

本書は2017年出版の復刻版であるため、「後日談」が追加されている。そこに時々、息子君のことが語られているのが嬉しい。「今」を懸命に生きる人たちに、ちょっと励まされたりもする。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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