ぽんきちさん
レビュアー:
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1頭の犬と「アメリカ」の物語
邦題は詩的で印象的なタイトルである。
原題は簡潔にGiv(ギヴ)。物語の軸となる犬の名である。副題はThe Story of a Dog and America、1頭の犬と「アメリカ」の物語。
原著発行は2009年。つまり、9・11の同時多発テロを経たアメリカだ。心を病んだ多くの帰還兵を抱え、ハリケーン・カトリーナの甚大な被害にも見舞われたアメリカだ。
そのアメリカを1頭の犬が流転する。犬はあるときは奪われ、あるときは自ら選んだ人に寄り添う。犬は時に人を救い、時に人に救われる。
彼の数奇な運命は人と人とをつなぎ、奇跡と言ってもよいような希望をもたらす。
物語の語り手はディーン・ヒコック。
イラク帰りの退役軍人だ。分隊でたった1人の生き残りである彼は、心に大きな傷を負い、生きる意味を見失っている。
雨の中、車を走らせていた彼は、道路で1頭の死にそうな犬を見つける。その犬、ギヴを助けたことで、ヒコックの人生は動き出す。
物語はギヴの「犬生」を追う形で進む。
最初の飼い主はハンガリーからの移民の女性。次の飼い主はミュージシャン志望の兄弟。それから兄弟の弟の恋人となった娘。そして帰還兵。
移民の国であり、映画や音楽の国でもあるアメリカを、ギヴは旅し、さまざまな人々と出会う。
物語はどこか寓話めき、時に神話のようにも映る。
物語の鎖には、欠けている部分もある。エンデの『はてしない物語』で「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしよう」と語られるように、物語はところどころ、完結しないのだ。
ギヴがいかにして悪徳業者に虐待されるに至ったのか。また、ギヴの父親がどのような人々と出会い、どのように彼らに寄り添ったのか。
語り手であるヒコックはいずれその物語に辿り着くのかもしれないし、辿り着かないのかもしれない。
それもまた1つの余韻となっている。
著者は作中人物の多くについて、実在の(時には行きずりの)人々からヒントを得たという。彼らの多くに血肉が通っていると感じられるのは、そのためだろう。彼らの視点はよくも悪くもアメリカの外へは向いていないとも感じるのだが、一方で、本作に描かれるような「よき隣人」がいるのもアメリカの美点ではある。
悲惨な事件が描かれないわけではない。だが、一方で、多くの善意の人々もいる。そしてそこに寄り添うまっすぐな犬もいる。
そんな世界で生きていくのは、案外悪くはないかもしれない。
原題は簡潔にGiv(ギヴ)。物語の軸となる犬の名である。副題はThe Story of a Dog and America、1頭の犬と「アメリカ」の物語。
原著発行は2009年。つまり、9・11の同時多発テロを経たアメリカだ。心を病んだ多くの帰還兵を抱え、ハリケーン・カトリーナの甚大な被害にも見舞われたアメリカだ。
そのアメリカを1頭の犬が流転する。犬はあるときは奪われ、あるときは自ら選んだ人に寄り添う。犬は時に人を救い、時に人に救われる。
彼の数奇な運命は人と人とをつなぎ、奇跡と言ってもよいような希望をもたらす。
物語の語り手はディーン・ヒコック。
イラク帰りの退役軍人だ。分隊でたった1人の生き残りである彼は、心に大きな傷を負い、生きる意味を見失っている。
雨の中、車を走らせていた彼は、道路で1頭の死にそうな犬を見つける。その犬、ギヴを助けたことで、ヒコックの人生は動き出す。
物語はギヴの「犬生」を追う形で進む。
最初の飼い主はハンガリーからの移民の女性。次の飼い主はミュージシャン志望の兄弟。それから兄弟の弟の恋人となった娘。そして帰還兵。
移民の国であり、映画や音楽の国でもあるアメリカを、ギヴは旅し、さまざまな人々と出会う。
物語はどこか寓話めき、時に神話のようにも映る。
物語の鎖には、欠けている部分もある。エンデの『はてしない物語』で「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしよう」と語られるように、物語はところどころ、完結しないのだ。
ギヴがいかにして悪徳業者に虐待されるに至ったのか。また、ギヴの父親がどのような人々と出会い、どのように彼らに寄り添ったのか。
語り手であるヒコックはいずれその物語に辿り着くのかもしれないし、辿り着かないのかもしれない。
それもまた1つの余韻となっている。
著者は作中人物の多くについて、実在の(時には行きずりの)人々からヒントを得たという。彼らの多くに血肉が通っていると感じられるのは、そのためだろう。彼らの視点はよくも悪くもアメリカの外へは向いていないとも感じるのだが、一方で、本作に描かれるような「よき隣人」がいるのもアメリカの美点ではある。
悲惨な事件が描かれないわけではない。だが、一方で、多くの善意の人々もいる。そしてそこに寄り添うまっすぐな犬もいる。
そんな世界で生きていくのは、案外悪くはないかもしれない。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:299
- ISBN:9784167908775
- 発売日:2017年06月08日
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