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Wings to fly
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純粋な愛の力を描いた、大人のための物語。
オスカー・ワイルドの作品と聞いてすぐに思い浮かぶのは『サロメ』や『ドリアン・グレイの肖像』で、耽美と退廃の作家のように語られることも多い。しかし、ワイルドは『幸福の王子』や『わがままな大男』など子ども向けの作品も残している。その特徴は、例えば『ピーター・パン』みたいな生粋のファンタジーではなく、民話風の素朴なストーリーだけれどアンデルセンのように教訓的ではなく、心の琴線にふれる優しさがある。この『漁夫とその魂』もそのような系統の作品だが、たいそう余韻の深い大人のための物語である。

若い漁師は、網にかかった人魚を捕まえる。人魚は海の王の娘で、漁師は放してやる代わりに、自分が呼んだ時は海に浮かび歌うことを約束させた。美しい歌声は恋心を誘い、漁師は海の王国で人魚と共に一緒に暮らしたいと願うようになる。ところが人魚は「魂のある人間とは一緒に暮らせない。」と言う。漁師は魂を厄介払いする方法を教えてもらいに、魔女のもとへ向かった。

夜の森で漁師と踊り、人魚に嫉妬する若い赤毛の魔女も忘れがたい。切り離される魂は「きみの心をぼくにおくれよ。」と懇願するが、「心をあげてしまったら、僕は何をもって恋人を愛せばいいんだい?」と漁師は断る。魂は泣いて去り、漁師は海の恋人のもとへ。魂は一年ごとに海辺にやってきて、旅の物語で漁師を誘惑する。知恵の鏡にも富の指輪にも「愛の方が大切だよ。」と応じなかった漁師だが、三度目の誘いに屈して再び魂を受け入れる。しかし、心を失った魂は悪に染まっていた。

魂の物語は極彩色の異国情緒があり、魅力的かつ恐ろしい。愛の力で悪の誘惑に立ち向かった漁師が、人魚の姫の亡骸を抱きしめて語りかける言葉が胸に沁みる。ワイルドのいう「魂」とは、人間だけが持つ理性や知性のことなのだろう。それを越えたところにある感情、命を捨てても惜しくはないほどに強い、純粋な愛の力を描いている。神に背いた不届き者として墓標もなしに埋められた場所には、やがて純白の花が咲く。まさに芳香漂う終幕である。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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