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かもめ通信
レビュアー:
赤木かん子編のアンソロジー『六の宮の姫君』からの派生読書。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

ある日のこと芥川は日比谷公園で
ベンチの下に落ちていた何枚かの紙を拾った。
てっきり自分のポケットから落ちたのだとばかり思っていたのだが、
後で広げてみると、誰か若い女が女友だちに宛てた手紙だったのだという。

偶然目についた箇所にはこう記されてた。

芥川龍之介と来た日には大莫迦だわ。

となれば、これはもう読まずにいられない。

文学好きらしいその女性は、
かつては都会の生活を満喫していたのかもしれないが
今は九州の親元で暮らしていていて退屈極まりない生活をしているよう。
芝居はないし、展覧会、音楽会、講演会などもないと不平たらたら。
(どこかで聞いたような話でもある。)

裕福な家庭のお嬢さんのようではあるが、
弟や妹がいてあとがつかえているのだからと
見合い話をひっきりなしに持ち込まれている。

結婚相手にいろいろ条件をつけると「理想が高い」と言われ、
しぶしぶながら実際に会ってみると相手がみな「低能児」に見えてしまう。
こういう結婚難に遭っているのは自分だけでないはずなのに、
日本の小説家はこうした悩みを抱える女性のことをどうして書かないのだと文句を言う。
書いて解決方法を示すべきではないかというのだ。

(それにしてもこの「女性」、文学への期待が半端ではない。
そういう点にもまた芥川の考えがチラリとみえておもしろい。)

彼女は、小説家の名前を連ね、その無力さ嘆き
しまいには芥川の『六の宮の姫君』を激しく批判する。

意気地のない姫君のことを
「熱烈に意志しないものは罪人よりも卑しい」と嘲るが
自活、自立するための教育を受けてこなかった自分たちには
どれほど熱烈な志しをもったところで実行する手段がない。
六の宮の姫君だってきっとそうだったに違いない。
それをさも得意そうにののしる芥川の姿勢は
不見識で軽蔑するに値するというのが手紙の主の主張だ。

これを読んだ芥川の反応はというと………?!
(本当に短い物語なのでぜひ読んでみてください。)


ちなみにこの短篇小説、「婦人公論」に掲載されたものだそう。
大正時代の雑誌読者は、いったいこれをどう受け止めたのだろうか。
とても気になるところでもある。

<関連レビュー>
六の宮の姫君/赤木かんこ編アンソロジー
六の宮の姫君/北村薫
芋粥(青空文庫)/芥川竜之介
藪の中(講談社文庫)/芥川龍之介
桃太郎(青空文庫)/芥川竜之介
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. ことなみ2017-06-09 08:39

    ありがとうございました。とても参考になりました。
    女性というくくりは、いつでも何に関しても面白いですね。
    特に私が女だから、と言ってしまうのも世流に合わないし。
    大正時代の「婦人公論」気になりますね。特にこの頃の女性の自立については。

  2. No Image

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