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この本の魅力はまるでエデンのよう。でもそれはその魅力が賢くて強くて美しい女刑事にあるという意味ではなく、善悪が曖昧でとても複雑で共感はできないがどうしても気になって目がはなせないという意味なのだが。
もしあなたが、キャンディス・フォックスのシドニー州都殺人捜査課シリーズを読むのはこれが初めてだとしたら、おそらくちょっと戸惑うことだろう。
警察小説を読むつもりでページをめくったとしたらなおさらだ。
なにしろシリーズ第1作目の 『邂逅』からして異色の展開だった。
登場人物たちの強烈すぎる個性と表と裏の顔、そこにいたるまでの生い立ちなどなど、いくつもの物語が重なり合ったような複雑な状況を一気に読ませる筆力はとてもデビュー作とは思えないほどで、最後まで圧倒されっぱなしだったのだ。
私が苦手とする猟奇的なシーンも多かったので、続編を読むかどうか全くためらわなかったといえば嘘になるが、(あれから、あの人たちはいったいどうなってしまったのだろう?)という好奇心には勝てなかった。
恐ろしいほどにたくさんの問題を抱え込んだ登場人物たちにかなり惹かれていたことも事実だった。
新たな事件からの展開を予想して、ページをめくると、なにやら曰くありげな少年の物語が語り始められる。
たとえば、犯人の独白や被害者の物語などが、事件捜査と平行していずれも現在進行形で語られるカットバック手法はそう珍しいものではないかもしれないが、このシリーズの構成はもう少し複雑だ。
本作でいえば、自分の名前を思い出せない少年の物語と、“わたし”ことシドニー州都警察殺人捜査課の刑事フランク・ベネットの語りと、あちこちで起きている事柄を拾い上げる作者の目線とが代わる代わるに登場する。
その多角的構成がただ単に過去と現在を行ったり来たりするだけでなく、より立体的な物語を作り上げている。
前作でそれぞれ大事な人を失ったフランクとエデンは、警察の指示によりカウンセリングを受けている。
一日も早く現場復帰をしたいエデンは淡々とスケジュールをこなしているが、フランクの方は酒と薬におぼれて、深刻な状態に陥っている。
そのフランクをあのエデンが、なんとか支えようとしているところが冒頭から実に興味深い。
なにしろ、エデンときたら……とにかく“特別”なのだ。
復帰早々3人の若い女性の失踪事件を調べることになる二人。
手がかりを求めて全員が滞在していたことがある農場に、エデンがおとり捜査官として潜入することになる。
そこは犯罪者やならず者がたむろする閉鎖的なコミュニティだった。
一方フランクは監視チームの指揮を執ると同時に“冥界の王ハデス”の名で知られるエデンの養父の依頼で、昔の事件を調べることに。
前作ほどではないが相変わらず凄惨なシーンがあり、人も動物も痛めつけられる。
けれどもなぜか目を覆うことなくむしろ目を見張って食い入るように読んでしまうのは、そうした場面に出くわす人々の造り込みが見事だからかもしれない。
これは警察小説だと思って読まない方がいい。
謎解きを目的として読むこともあまりおすすめできない。
あるいはもしかすると、読み進めているうちに少しばかり陰鬱な気分になるかもしれない。
それでもやはりこの長編は読む価値のある物語だと思う。
善と悪の境目は非常に曖昧だ。
人を傷つけながら自分も傷ついている人々がいる。
彼らの行為を正当化することはできないが、彼らを嫌いにはなれない。
それどころか、かなり魅了されてしまっているといってもいい。
彼らのその後が気になって、私はまたきっと次作も読んでしまうことだろう。
尚、本作ではもう一つ、この物語の背景にあるオーストラリア特有の事情、先住民族アボリジニに対する非人道的な同化政策が、心に重くのしかかる。
こちらの方面もいずれもう少し、掘り下げてみたい気がしている。
警察小説を読むつもりでページをめくったとしたらなおさらだ。
なにしろシリーズ第1作目の 『邂逅』からして異色の展開だった。
登場人物たちの強烈すぎる個性と表と裏の顔、そこにいたるまでの生い立ちなどなど、いくつもの物語が重なり合ったような複雑な状況を一気に読ませる筆力はとてもデビュー作とは思えないほどで、最後まで圧倒されっぱなしだったのだ。
私が苦手とする猟奇的なシーンも多かったので、続編を読むかどうか全くためらわなかったといえば嘘になるが、(あれから、あの人たちはいったいどうなってしまったのだろう?)という好奇心には勝てなかった。
恐ろしいほどにたくさんの問題を抱え込んだ登場人物たちにかなり惹かれていたことも事実だった。
新たな事件からの展開を予想して、ページをめくると、なにやら曰くありげな少年の物語が語り始められる。
たとえば、犯人の独白や被害者の物語などが、事件捜査と平行していずれも現在進行形で語られるカットバック手法はそう珍しいものではないかもしれないが、このシリーズの構成はもう少し複雑だ。
本作でいえば、自分の名前を思い出せない少年の物語と、“わたし”ことシドニー州都警察殺人捜査課の刑事フランク・ベネットの語りと、あちこちで起きている事柄を拾い上げる作者の目線とが代わる代わるに登場する。
その多角的構成がただ単に過去と現在を行ったり来たりするだけでなく、より立体的な物語を作り上げている。
前作でそれぞれ大事な人を失ったフランクとエデンは、警察の指示によりカウンセリングを受けている。
一日も早く現場復帰をしたいエデンは淡々とスケジュールをこなしているが、フランクの方は酒と薬におぼれて、深刻な状態に陥っている。
そのフランクをあのエデンが、なんとか支えようとしているところが冒頭から実に興味深い。
なにしろ、エデンときたら……とにかく“特別”なのだ。
復帰早々3人の若い女性の失踪事件を調べることになる二人。
手がかりを求めて全員が滞在していたことがある農場に、エデンがおとり捜査官として潜入することになる。
そこは犯罪者やならず者がたむろする閉鎖的なコミュニティだった。
一方フランクは監視チームの指揮を執ると同時に“冥界の王ハデス”の名で知られるエデンの養父の依頼で、昔の事件を調べることに。
前作ほどではないが相変わらず凄惨なシーンがあり、人も動物も痛めつけられる。
けれどもなぜか目を覆うことなくむしろ目を見張って食い入るように読んでしまうのは、そうした場面に出くわす人々の造り込みが見事だからかもしれない。
これは警察小説だと思って読まない方がいい。
謎解きを目的として読むこともあまりおすすめできない。
あるいはもしかすると、読み進めているうちに少しばかり陰鬱な気分になるかもしれない。
それでもやはりこの長編は読む価値のある物語だと思う。
善と悪の境目は非常に曖昧だ。
人を傷つけながら自分も傷ついている人々がいる。
彼らの行為を正当化することはできないが、彼らを嫌いにはなれない。
それどころか、かなり魅了されてしまっているといってもいい。
彼らのその後が気になって、私はまたきっと次作も読んでしまうことだろう。
尚、本作ではもう一つ、この物語の背景にあるオーストラリア特有の事情、先住民族アボリジニに対する非人道的な同化政策が、心に重くのしかかる。
こちらの方面もいずれもう少し、掘り下げてみたい気がしている。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:576
- ISBN:9784488179069
- 発売日:2017年04月28日
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