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Jun Shinoさん
Jun  Shino
レビュアー:
心から楽しんだ。珠玉の飛鳥譚。
飛鳥譚、は一部近江わずかに難波、ほんのちょっと吉野です。久しぶりに終わってほしくないなと思いつつ読了。教えていただいた千世さんに感謝です。

乙巳の変(大化の改新)から壬申の乱前夜まで、タイトルのとおり、軽皇子(孝徳天皇)、有間皇子、額田大王、常陸郎女、鏡女王、中臣鎌足、鵜野皇女を主人公とした7つの短編が収録され、時系列で進行する。

軽皇子は盟友の秀才、蘇我鞍作(入鹿)を乙巳の変で失う。旧蘇我派の反発などの情勢を落ち着かせるため皇極天皇に替わって帝位に就くことになり、鞍作が思い描いていた政策を推し進めるがー。(風鐸ー軽皇子の立場からー)

軽皇子の心の支え、小足媛との間の子である有間皇子も第2篇でまた悲劇的な運命を辿る。

戦国好き、幕末好き、歴史は魅力に溢れているが、古事記、日本書紀、さらに聖徳太子から壬申の乱の時代好き、という人も多いのではないだろうかと最近思う。永井路子、黒岩重吾らによるその時代の作品群を読んでいると、エピソードの方向性、登場人物の性格づけなどに、作品による差を感じられたりして嬉し楽しい。

第3篇は額田大王。ここまでの2人は歴史の狭間で残酷に切り捨てられた人たち。美貌と歌才に恵まれ、大海人皇子(のちの天武天皇)と中大兄皇子(のちの天智天皇)と父母が同じの兄弟に愛され、憂愁の歌も、色気と遊び心をにじませた歌も残している、ちょっと突き抜けた女性をどう描くか。今回短く強烈なインパクトというよりは、全編にわたってあしびきの長い尾を引くような存在で、しかもその魅力を浮き立たせている印象だった。

常陸郎女は有間皇子を陥れた蘇我赤兄の娘で中大兄皇子の妃の1人。鏡王女は額田大王の姉で妹に対抗するかのように中臣鎌足の妻の1人となる。子は十市皇女。女たちの愛憎にスポットを当て掘り下げながら、歴史の動きを語る。特に百済・高句麗・新羅に唐が絡む激動の国際情勢の中、ともすれば軽く扱われがちな蘇我赤兄が落ち着いた切れ者として描かれているのが興味深い。

ラスト2つは中臣鎌足と、大海人皇子の妃で後の持統天皇である鵜野皇女。仲の悪い中大兄皇子と大海人の仲裁役の鎌足は没し、吉野に下った大海人に付き従った、かたくなな性格の鵜野に運が向いてくるような流れは歴史の向きを感じさせる。鎌足が額田の存在を苦々しく思っているのもされば、と腑に落ちて微笑んでしまう。

前半は百済出兵を主導した皇極・斉明女帝が中心の1人。さらに中大兄皇子がなかなか帝位に就かなかった理由を同父同母の間人皇女との、子までなした恋愛関係に求めていて、その憂いは全編を貫いている。またなぜ中大兄皇子は早々に大海人皇子を殺してしまわなかったのか、という大命題は、触れながらもあえて謎のままにしている、という気がする。泰然としたイメージの大海人、さらにその子の大友皇子がやや激情型の設定なのも面白い。

この時期の主要な事件を取り上げながら、豊富な知識と細かな描写で大きな流れを作り、深い味を感じさせる佳作だと思う。そんなに長い作品ではないが、すっかり呑み込まれてしまった。

この時代は、やめられないな。満足。
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Jun  Shino
Jun Shino さん本が好き!1級(書評数:1366 件)

読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。

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この書評へのコメント

  1. 千世2020-01-16 20:32

    Jun Shino様!読んで頂けてとってもうれしいです。
    レビューもとっても楽しいです。自分とはまた違う視線。
    この時代のファンは実は多いということは、私もこのサイトに参加するようになって感じています。
    他のファンの方にも、読んで頂けるといいですね。

  2. Jun Shino2020-01-16 21:41

    いやー堪能しました。。ありがとうございます!書評アップした後千世さんのレビューを拝読しました。すっきりと、好ましい気持ちが伝わってくるような文章でさらに楽しめました。思いの違いも面白いものですね。

    ビジュアルは強いからか、壬申の乱ものは手塚治虫の「火の鳥 太陽篇」をどうしても思い浮かべながら読んじゃいますね。火の鳥では大友皇子は優しすぎる性格だったのです。
    聖徳太子の時代のものはまだ読んだことがないので、探したいと思ってます。。

  3. 千世2020-01-17 22:35

    私も聖徳太子の時代のものは読んだことないです。読んでみたいです。
    みつかったらまた教えて下さいね。

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