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あかつき
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降り積もった後悔に突き動かされて、次へ走るしか道がない。 後悔に突き動かされなくなったら、その時は成長が止まる時だ。
まどか先生は外科系志望の研修医。将来専修する科や女性としての将来をどうするかお悩み中。はっきり描かれていないが、研修病院はおそらく300-500床くらいの中核病院だろう。
知られざる女子研修医の生態の紹介本……ってことなのだが、研修医ってこんなにキレイじゃなかったなあ、もっと薄汚れてくすんでた。世代格差かもしれぬが、なんとなく共感できなくて点低め。
研修医本としては、森本梢子の「研修医なな子」に勝るものはないです、断言。

今や医学生のほぼ半分が女性。(某東京医大のように合格者性別を調整しているところもあるかもしれないが)
ストレートで医学部入学し、6年で卒業して25歳。2年研修(必修)して、27歳。ここまでのレールは半自動的に引かれており、ここが、本当の医者としてのスタートラインになる。
この先は、自分で道を選ばなければいけない。
何科に進むのか、どうやって研鑽を積むのか。
大学に入局するのか、入局せずに後期レジデントになるのか。
専門医をとるのか、先に学位をとるのか。
その過程で自分探しにとち狂い、資格マニアになって○○専門医の肩書は多かれど肺炎もろくに診れない奴とか、病院を自主的に転々とした結果5年前と全くスキルが上達してない奴とか、逆に一か所の病院だけに染まり切って其処以外では働けなくなってしまう奴など変な感じに醗酵してくる人たちもいる。
いずれにしても症例の数と種類を経験し、腕とセンスを磨き、知識を増やし、そんな日常臨床の合間に学会発表し、論文を書いて、試験を受けていかなければならない。
しかし、無限の体力はなく月7回平気だった不眠当直、今や2回でかなりきつい。記憶力や集中力も年齢によって衰える。故に研修終了後の10年がステップアップの決め手になる。
鉄と医者は熱いうちに打たねばならぬのだ。

しかし、このステップアップのための「課題」は上司や先輩が与えてくれるようなものではない。自分からガツガツ求め、結果を示さなければ、誰も大事な患者の命を任せてくれやしない。
つまり、この10年を受動的に淡々と過ごすと、ピンで働く医師としては脱落する。
しかし、今はこのご時世ですから。
ボクの権利です!と九時五時で帰っていく子らをわしらはどーぞーお疲れ様ー後はやっとくから明日も頑張ってねーとぬるい目で見送る。そういう働き方を選んだ者たちがその短い時間の中でどう経験を重ねどう患者とスタッフの信頼を得ていくのかは知らん。それは彼らが解決すべき課題だ。頑張ってね。
勿論、永遠に九時五時で、与えられた簡単な仕事だけしていてもいいのだ。専門医や学位だって別にとらなくっても誰も怒らない。
毎日ルーティンワークだけをこなして、ストレスもリスクもなければ刺激もない生活を送り、自分より若い奴らが専門医やら学位やらを持っているという理由で昇進し給料が上がっていくのを黙って見ている気があればね。
でも、そんな仕事、してて楽しい?

しかし、繁殖を希望する雌にとって、20代後半からの10年はそんなことしている暇なぞないらしい。と、いうことで女性医師はこの10年間でずるずると脱落(脱落ってか彼女らにとってはむしろ卒業?解脱?)していく。
医師一人育てるのに約5千万円(学費ではなく授業・実習にかかる諸経費で4千~6千万円、諸説あり)かかると言われるが、卒後10年余を過ぎた今、40人程いた同性同級生を見渡してみてもフルタイムで働いている女医は恐ろしいことに3人だ。研修後即半リタイアしてバイト医者やっている方達なんぞ、税金泥棒もいいところだと個人的には思う。
今後も女医は増えるだろうが、全てが働き続けてくれるわけではない。と、いうことで若い医者が増えないわけだから(卒業しても卒業しても半数が解脱していく)、現在現役の医者の負担は減ることなく、皆疲弊していく。
例えば、わたしの親の世代は40代後半で当直回数が減り、50代くらいになると不眠の救急当直からは免除若しくは管理当直(寝当直)にまわされていた。今はそんな余裕はない。卒業した奴らがどんどん何処かへ消えて行く中、おじさまたちも頑張って下さっているが医療現場の破綻は目前だ。
やるべきことは女医の人数調整ではなく、繁殖中の女医が働き続けられる環境整備だと思うのだがこれ如何。

で、まどか先生である。
志望は外科系。手術がしたい。とにかくはやく巧くなって一人前になりたい。でも、結婚も子育てもしてみたい。子育てしながらバリバリ働いている女医に憧れる。
そういや今週、女子学生のインターンを引き受けたが(男女キョードーサンカクナンタラの一環で、働く女医の姿を学生に見せろという上から企画)、彼女開口一番「先生は結婚しないんですか」と聞いて来たぞ。悪いな、結婚したら間違いなくわしの仕事人としての「生産性」は低下する。故にわしは結婚したくないし家に帰って人がいたらと思うとゾッとするわ。
この「まどか先生」や実際会った医学生の考えや要望(夢)は、正直なところ甘いと思うことはないではない。
両立という言葉は美しいし、女医のロールモデルで出てくる子育てもお仕事も充実してます★みたいなのは確かにキラキラして見えるだろうよ。が、やっていることは両立ではなく妥協だ。そう認めなければ、周囲の理解と協力は得られない。
現在の状況では、悲しいことに真の両立はなし得ないのだ。

……なんて考えながら、あの頃を思い出す。
まだ、そんな社会状況とか何も考えていなかった頃。
毎日まいにちその日のデューティーをこなすことだけで精いっぱいで、闇雲に修了目指して進むしかなかったあの頃。
仕事の楽しさを感じることなんてなかった。良い仕事をしたいという気持ちより、指導医に褒められたいという気持が強かった。仕事がストレスなくせに毎日病院と繋がっていないと不安で、on/offをはっきりつけたい当時の恋人(麻酔科志望だった)が理解できなくなった。正直なところ、色恋より仕事の方がやりがいがあった。地元を離れていたから友人もいなかった。精神も肉体も人並み以上に丈夫だったから「心折れる」とかは全くなかったけれど、楽しかったことなんて、一つもなかった。

あの時期があったからこそ、今は楽しみながら仕事をしている。
しかし、同時に研修医のころに持っていて、今は失くしてしまった、というか誤魔化せるようになってしまったものも多くある。
恐れとか、不器用さとか、がむしゃらさ。
そういったものを、少し思い出す。
降り積もった後悔に突き動かされて、次へ走るしか道がない。
医者ってそういう仕事なのかもしれません。
そうなのだ。それは、年数とは関係ない。
研修医でも専修医でも専門医でも指導医でも、同じ。
後悔に突き動かされなくなった時。

その時が、成長が止まる時だと思う。
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あかつき
あかつき さん本が好き!1級(書評数:760 件)

色々世界がひっくり返って読書との距離を測り中.往きて還るかは神の味噌汁.「セミンゴの会」会員No1214.別名焼き粉とも.読書は背徳の蜜の味.毒を喰らわば根元まで.

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この書評へのコメント

  1. 塩味ビッテン2018-08-04 21:26

    東京医大女子入学制限問題は世間一般的に言えば「悪」というレッテルを貼らざるを得ないのですが、そういう人は、胃癌の手術を受ける日に「今日は執刀医のA子先生(ママさん外科医)のお子さんが熱が出ましたので、急遽代わりに医者になって3年目の私が執刀します」というのを良しとする覚悟があるんだろうなあ。といってやりたい気がします。悪いのは女医ではなく、その子たちを守るべき環境を整えていない社会認知度の低さです。女医の子供たちの環境を整備するために治療費を1、5倍にするか、税金を3%増やすかしないと日本の医療は立ち行きません。ちなみに塩味57歳にしてnight dutyやってます。

  2. あかつき2018-08-05 09:33

    既婚女医友の多くが子育て中です。医局人事で職場が決まっても、子供の預け先は自力で探さなければいけない、日中は保育所に預けられても、夜間急患対応時は?子供が熱出した時は?当直やれと言われて本人もやる気でも、夜の子供の預け先は?
    結局、祖父母という家族サポートがなければ母医師のフルタイム勤務は非現実的です。
    結局女性を生かしていないのは社会制度と、母の緊急事態を理解しない患者の方なのに、産めとか働けとか好き勝手いう政治家たち。あーあ。
    夜のDuty(あ、卑猥な響き❤️)お疲れ様です、お察し申し上げまする。

  3. 塩味ビッテン2018-08-04 21:55

    というわけでT京医大のみならず女医は厄介者という風潮は医療現場には無きにしも非ず。(重ねて申し上げますがこれには女医には罪は全くない。多分ほかの業種のキャリアウーマンも同じ憂き目に会っているはず)。日本の医者は都市部でさえも全く足りてません。
     
     ところで夜のDutyはduty in bedよりもうんと楽です。(というほどdutyを果たしていないし)。

  4. あかつき2018-08-05 09:05

    現役仕事人としては、男医が欲しい気持ちはわかるのです、今の状況としては。
    でも、元受験生としては、「そういうルールがあるのに受験生に知らせず、受験料ふんだくるんなんてアンフェアだ」とも思います。

    家でも夜のDutyをこなしましょう!お軽だけを愛撫せず!

  5. No Image

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