かもめ通信さん
レビュアー:
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想いを語り継ぐ。(祝! #書肆侃侃房15周年 記念レビュー)
書肆侃侃房15周年のプレゼント企画でいただいた『原爆句抄―魂からしみ出る涙』が
あまりのスゴ本だったので、
もう少し俳人松尾あつゆきを追ってみたくなって手にした本。
あつゆきの孫にあたる平田氏が、
祖父の日記や母の遺した証言録などを元に編んだ本には、
あつゆきからはじまって親子4代、それぞれの想いが詰まっている。
あつゆきの日記については『原爆句抄―魂からしみ出る涙』と重なる部分もあるが、
『原爆句抄』のそれが、
主に失った者への想いが綴られていた部分の抜粋であるのに対し、
この本に収録されているのは、生き残った者の苦悩だ。
あつゆきは妻と三人の子を失い、唯一生き残った娘も重傷を負って予断を許さない。
娘の看護のために仕事を休む彼は、
「被災したのはあなだだけじゃない」と欠勤をとがめられ職をも失うことになる。
虫なく子の足をさすりしんじつふたり
あるいはなにもかも失ってしまったならば、
かえって仕事に打ち込むしかなかったかもしれないが
既に4人の家族を失った父子は
娘の具合がかなり悪かっただけに
仕事に出ている間にもしものことがあったならと思うと
互いにひとときも離れることができなかったのだ。
梳けば抜けるこの髪を梳いてやるコショウの花
もしも食いつなぐことができなくなったら、
二人で死のうと父は書く。
そこには原爆症に苦しむ娘への想いだけでなく
死の間際、そばにいてやることができなかった子らへの想いが透けて見える。
父は妻を子は母を思って涙する夜がある。
苦しみながらも必死に生きる娘の姿はそのまま
父を生かすことにもなった。
娘をいたわりながら妻を思うあつゆきの句は本当に切ない。
生前の祖父は笑わない人だったと孫はいう。
幼い自分たちがはしゃぎまわる姿をみてもにこりともしない祖父を
少し怖がってもいた。
けれども、祖父の日記を見てその思いを知る。
孫たちが走り回る姿に祖父は
あの日失われた我が子の姿を重ね見ていたのだと。
原爆の投下によって
多くの生命も、多くの家も、何もかもが失われた。
町は再び復興しても失われたものは元通りにはならない。
私はふと、昔よく歌われた『青い空は』という歌を思い出す。
ずっと昔から変わっていないはずの青空さえも
あの日以来あつゆきは
晴れやかな気持ちで見上げることができなかったのだと改めて気づく。
原爆の日がすぎるとまたひっそりつくつくぼうし
祖父の想い、母の想いに触れた孫は、
自分の娘にもまたその想いを伝えていく。
私もまた、彼らの想いに触れて誰かに伝えたくなるのだった。
あまりのスゴ本だったので、
もう少し俳人松尾あつゆきを追ってみたくなって手にした本。
あつゆきの孫にあたる平田氏が、
祖父の日記や母の遺した証言録などを元に編んだ本には、
あつゆきからはじまって親子4代、それぞれの想いが詰まっている。
あつゆきの日記については『原爆句抄―魂からしみ出る涙』と重なる部分もあるが、
『原爆句抄』のそれが、
主に失った者への想いが綴られていた部分の抜粋であるのに対し、
この本に収録されているのは、生き残った者の苦悩だ。
あつゆきは妻と三人の子を失い、唯一生き残った娘も重傷を負って予断を許さない。
娘の看護のために仕事を休む彼は、
「被災したのはあなだだけじゃない」と欠勤をとがめられ職をも失うことになる。
虫なく子の足をさすりしんじつふたり
あるいはなにもかも失ってしまったならば、
かえって仕事に打ち込むしかなかったかもしれないが
既に4人の家族を失った父子は
娘の具合がかなり悪かっただけに
仕事に出ている間にもしものことがあったならと思うと
互いにひとときも離れることができなかったのだ。
梳けば抜けるこの髪を梳いてやるコショウの花
もしも食いつなぐことができなくなったら、
二人で死のうと父は書く。
そこには原爆症に苦しむ娘への想いだけでなく
死の間際、そばにいてやることができなかった子らへの想いが透けて見える。
父は妻を子は母を思って涙する夜がある。
苦しみながらも必死に生きる娘の姿はそのまま
父を生かすことにもなった。
娘をいたわりながら妻を思うあつゆきの句は本当に切ない。
好きな句ができた。
つきよまたきたよおまえのすきなこでまりだよ
千代子は「こでんまり」といって好いていた可憐な花。
妻に似て、無邪気な花といいたい。
暫くしたら咲くだろう。早く、挿してやりたい。
生前の祖父は笑わない人だったと孫はいう。
幼い自分たちがはしゃぎまわる姿をみてもにこりともしない祖父を
少し怖がってもいた。
けれども、祖父の日記を見てその思いを知る。
孫たちが走り回る姿に祖父は
あの日失われた我が子の姿を重ね見ていたのだと。
原爆の投下によって
多くの生命も、多くの家も、何もかもが失われた。
町は再び復興しても失われたものは元通りにはならない。
私はふと、昔よく歌われた『青い空は』という歌を思い出す。
青い空は青いままで子どもらに伝えたい
ずっと昔から変わっていないはずの青空さえも
あの日以来あつゆきは
晴れやかな気持ちで見上げることができなかったのだと改めて気づく。
原爆の日がすぎるとまたひっそりつくつくぼうし
祖父の想い、母の想いに触れた孫は、
自分の娘にもまたその想いを伝えていく。
私もまた、彼らの想いに触れて誰かに伝えたくなるのだった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:
- ページ数:256
- ISBN:9784863851931
- 発売日:2015年08月04日
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