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Wings to fly
レビュアー:
荒々しい大平原に根を張ろうとする生き方が、深い感動を呼ぶ。
この本を読み終えて、彼女はまさに「私のアントニーア」になった。アントニーアは19世紀後半にボヘミアからアメリカへ渡ってきた貧しい移民の娘で、人生は苦難の連続だ。けれども、「大地があたしを受け入れてくれるところに住みたい。あたしは、ここで生きて、ここで死にたい。」という揺るぎない心、荒々しいネブラスカの大平原に根を張ろうとする生き方に心を掴まれた。

アントニーアの家族は、売り手に騙されて瘦せ地と穴倉みたいな家をつかまされる。お金も知識もなく英語も不自由で、厳しい冬を乗り越えられるかどうかわからない。そんな一家を見守る、近所の少年ジムの語りで物語は進んでゆく。

ジムは両親を失い、アントニーアと同じ汽車で祖父母の元へやってきた。ジムの祖父は裕福な農場主で、アントニーアの一家に何度も手を差し伸べる。アントニーアの父親も、故国では音楽を生業とする教養ある紳士だったのだが、厳しい土地での貧しい暮らしに追いつめらてゆく。

経済的な差はそのまま「階級の差」につながる。だが、青年になったジムの目に映る移民の娘たちは、親の貧困から多くを学び、現実を見据える観察力を持つ、健気で勇敢な女の子だ。そしてまた、子ども時代のかけがえのない思い出を分かち合った仲間である。ジムの温かい視線は、身を粉にしてアメリカの基を作った人々に対する作者の愛だとも思う。

一方、働きづめのアントニーアがダンスに夢中になれば世間の非難の的となり、男性に交じって収穫の手伝いをしても悪く言われる。良くも悪くも当時の風潮とか、農場と町の暮らしがどちらも生活感を伴って描かれ、発展してゆく若いアメリカの熱気とその時代を生きた人々の息遣いを感じる。

周囲の人々のエピソードも素晴らしい。悪意と善意、ちょっとした運に翻弄される人生の、胸を締め付けるような場面の数々が、「生きるってこういうこと」と作品に厚みを加えている。

ハーヴァード大学を卒業し弁護士になるジムと、小さな農場に残るアントニーアの道は分かれてゆく。また必ず帰ってくるというジムに、彼女は言う。
「戻ってこなくても、父さんと同じようにあんたはここにいるわ。だから寂しくはないの。」
そのまま作者は、ふたりの絆を大切に最終章へと運んでゆく。

たくさんの子どもと優しい夫に囲まれたアントニーア、その風景に微笑むジム。何をもって人生の報いとするかは人それぞれだが、倒れては立ち上がり、ネブラスカの大地に生きた彼女は敗者ではない。
始めから終わりまで何度となく心を揺すぶられた。愛しいアントニーアよ、あなたの見事な人生に敬意を表したい。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. hacker2022-08-29 07:49

    「素敵」というボタンがあれば、押したい書評でした。俄然、読む気がわいてきました。『パープル・ハイビスカス』の方が先になりますが。

  2. Wings to fly2022-08-29 12:43

    嬉しいお言葉をありがとうございます。
    これはずーっと記憶に残る本になりそうです。機会があれば是非!ハイビスカスの方も、書評楽しみにお待ちしてますね!

  3. No Image

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