このPR誌に掲載されていた詩人の谷内修三(やちしゅうそ)さんの文章に惹かれて、他の著作も読んでみたいとあれこれ調べていてこの本のことを知った。
ちょうど、この間の憲法記念日に、自民党総裁でもある安倍首相が「憲法改正」への意欲を語ったことが取り沙汰されていたこともあり、いったいどんな風に変えたいと思っているのか、この機会に詩人の手を借りて学んでみるのもいいかもしれないと思ったのだった。
詩を読むとき、あるいは小説や短歌や俳句などを読むとき、詩人は「動詞」を中心に読むのだという。
なぜなら「名詞」は言葉の豪華さにごまかされるなどしてよくわからないこともあるが、「動詞」は裏切らないからだと。
「動詞」にはどうしたって「主語」が必要だ。
だから「主語」を補って読むのだという。
たとえば
(現行憲法)
第19条 思想および良心の自由は、これを侵してはならない。
(自民党草案)
第19条 思想および良心の自由は、保障する。
この違いをどう読むか。
あるいは詩人は置き換えられた言葉や削除された言葉に注目して読む。
(現行憲法)
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
(自民党草案)
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、主権の存する国民の権利である。
(現行憲法)
第24条
婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
(改正草案)第24条
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
言葉に敏感な詩人の目を通して、現法憲法と自民党憲法改正草案を読み比べていくと、つらつらとそれぞれの条文だけを読んでいた時には気づかなかったあれこれが浮かび上がってきた。
詩人のアドバイスに従って、巻末に収録された日本国憲法全文と自民党・日本国憲法改正草案をもう一度初めからじっくり読んでみる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する
自民党草案の前文を初めて目にしたときから感じていた違和感の原因がわかってきた気がする。
普段は本には書き込みをしないだけでなく付箋すら貼らない私だが、今回は沢山付箋を貼り線を引いた。
今はこの本を片手に、誰かとあれこれ真剣に語り合いたい気持ちになっている。




本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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この書評へのコメント
- mono sashi2017-05-29 17:37
憲法草案を読み解くうえでも徹底した方法論をお持ちなのだな~、と思いました。
>「名詞」は言葉の豪華さにごまかされるなどしてよくわからないこともあるが、「動詞」は裏切らない
まさに言葉の置き方・運動に着目する谷内さんのレビューの特徴がそのまま反映された内容になっているようですね。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2017-05-29 17:00
mono sashi さん
詳しい方が読まれるとこれぞまさしく谷内流というところなのでしょうか?w
私はもう少し詩人の視点を研究したくなってきたので
次はこの本を読みたいなあと思っています。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 三太郎2017-05-29 20:58
「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」
この条文は違和感が強いですね。レヴィ=ストロースが、社会は家族からできているのではない、家族は社会とは異なる何かだ、といったことを思い出しています。
家族は社会生活からの避難所なんですよ。
だから、現在の法律でも家族は社会の通常のルールとは異なる扱いがされていると思います。
(犯罪者を匿っても、それが家族であれば罪に問われないとか・・・)
法律が家族の在り方に踏み込むのは、家に土足で上がり込まれたような、嫌な感じですね。
家族は助け合う必要があればとことん助け合うだろうし、助け合わない方がよければ、そうするでしょう。家族が決めればよいことで、法律で定めることではないでしょう。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 谷内修三2017-05-29 22:29
いまも「無償化」の教育(大学)はあります。
防衛大学。
でも、卒業生は、就職先を自由に選べない。
普通の企業や、普通の病院の医師になろうとすれば、「教育費」は返済しなければならない。
「自衛隊」も一種の「無償化教育」ですね。
給料もくれる上に、様々な資格(運転免許を初めとして)も無償でとらせてくれる。
でも、運転免許がとれたのでタクシーの運転手に転職、あるいは重機の運転免許がとれたのて建設会社に転職しようとしたら、どうなりますか?
すぐに転職できますか?
安倍の「教育の無償化」は、きっとそういう「しばり」つきの無償化。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2017-05-30 06:53
>谷内修三さん
おおっ!著者さんに直接コメントいただけて光栄です。
この本、本当に買ってよかったです。
早速周りにも勧めています。
ところでコメントで言及されている「教育の無償化」問題ですが
ご指摘はもっともだと思います。
ただ私が思うところでは、そもそも「教育の無償化」を制度化することは
憲法に規定しなくても実現できるはずなんですよね。
むしろ現行憲法に照らし教育の機会均等を実現するためには
もっとずっと早く推し進めるべき施策だったはずで。
教育の内容の問題も高等教育の問題ももちろんありますが、
現状は本来無償であるはずの義務教育の間もなにかと経済的負担がかかり
貧困世帯が増える中で教育の機会均等が脅かされている現状があることも確かです。
こういったすぐできるはずの「無償化」には
早急に取り組んでもらいたいものです。
もちろん現行憲法の下でという意味ですが。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 谷内修三2017-07-16 23:06
東京新聞(中日新聞)の7月15日朝刊に、私のインタビューが掲載されています。
下のURLから閲覧できます。
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/hiroba/list/CK2017071502000236.htmlクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 谷内修三2017-12-28 08:25
<a href="http://www.jicl.jp/now/ronbun/backnumber/20171030.html">法学館憲法研究所</a>に
「憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー」の批評が書かれていました。
お読みください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2017-12-28 08:51
谷内さん!お知らせありがとうございます。
リンク,貼れていないようですので,あらためてご案内させて戴きますね。
http://www.jicl.jp/now/ronbun/backnumber/20171030.html
早速読んできました。
「総選挙で自公など改憲勢力が三分の二を超し、改憲がいよいよ具体化しそうな今こそ読みたい一冊」との書評。
私も全く同感です!
皆様もぜひ!!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - 谷内修三2018-01-26 10:07
松井久子監督「不思議なクニの憲法2018」に、私も登場することになりました。
インタビューされて、憲法について語っています。
自主上映が主体なので見る機会はないかもしれませんが、
http://fushigina.jp/
上のURLで上映会場をチェックしてみてください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:ポエムピース
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