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ぽんきち
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ニホンオオカミとはそもそも何か?
近年、イノシシやシカが増え、山や畑が荒らされる例が増えてきている。捕食者が消え、生態系のバランスが狂ったことが一因であるとされる。
それに伴って、ではこうした「害獣」を狩る頂点捕食者を導入すればよいとする主張がある。具体的にはかつて日本にもいたが明治期に絶滅したとされるオオカミである。この議論には賛否両論あり、これしかないとする立場から、いやそれでは功を奏さないとする立場までさまざまである。

本書の主題は、そうした議論のそもそもの根底部分に注目する。
オオカミを導入する・しない以前に、オオカミは本当に絶滅したのか?という問題提起である。さらには、ニホンオオカミとは何者か?という問いである。
オオカミが絶滅したとされてから100年以上が経つが、オオカミらしき動物を「見た」という人がいる。「オオカミを探す会」というものもある。それは果たして、ツチノコや雪男を捜すような荒唐無稽な雲を掴むような「ロマン」なのだろうか? 一部の人が夢中になっているだけのバカバカしい話なのだろうか?
実のところ、野生動物との遭遇はそう簡単ではない。20年以上、多いときは1年の1/3を山で過ごした著者でさえ、野生のクマやキツネと出会ったことがないという。オオカミに会えないからといって、いないと言い切れるのか。「不在」の証明は極めて困難である。
オオカミには目撃証言や2000年に撮影された写真がある。もちろん、捕獲個体はないため、確証ではないが、一笑に付してよいかどうかはわからないのではないか。
著者はこうした目撃証言や証人に丹念に迫っていく。

オオカミの問題をさらに困難にしているのは、そもそもニホンオオカミとは何物なのかという点に十分な整理がついていないことだ。
ニホンオオカミのものとされる剥製の数は非常に限られており、いずれも相当古いものである。種の定義の基準となる「タイプ標本」はオランダに保管されている。剥製の中には、別の動物とつなぎ合わされたものや保存状態のよくないものもある。複数の剥製を比べると、大きさも毛皮の色も異なり、ものによっては本当に同じ動物なのか疑問が生じるほどだ。
古来、オオカミには複数の呼び名があったこともことを複雑にしている。山犬、豺、オオカミ、お犬等、地域によってさまざまである。山犬と呼ばれる場合には、野犬化した犬も含まれる場合もあったからさらにややこしい。街でカラスを見ても、いちいちハシブトガラスかハシボソガラスか気にしないのと似たようなもので、山にいるイヌ科動物とざっくりと名前をつけたということになる。

種が相当前に絶滅したとされ、剥製の形状もまちまちであれば、「ニホンオオカミ」とは何だったのか、検証は簡単ではない。ニホンオオカミはタイリクオオカミの亜種であるという説、別種であるという説に加えて、ニホンオオカミとタイリクオオカミ系のオオカミが2種存在したのだという説もある。オオカミ再導入派はニホンオオカミ=タイリクオオカミ亜種説を採る。別種説派は、別種のタイリクオオカミを導入することを疑問視する。

近年、ニホンオオカミの骨のDNAから、その起源を探る研究が行われている(参考記事)。この結果からは、タイリクオオカミが日本に入り込み、島嶼化と呼ばれる、競争相手が少ない環境に隔離されたことによる小型化を経たという仮説が有望であるように見える。

オオカミは犬とも近縁であり、交配が可能である。ニホンオオカミが実のところ、どんな進化の経緯を辿ったのか、完全に解明することはなかなか困難である。

目撃証言はなお続く。
ニホンオオカミは消えたのか?
実はその問いに答えるのは、それほど簡単ではない。


<参考>
『狼―その生態と歴史』
『日本人とオオカミ―世界でも特異なその関係と歴史』
『野生動物管理のための狩猟学』
『オオカミが日本を救う!: 生態系での役割と復活の必要性』
『ジビエを食べれば「害獣」は減るのか―野生動物問題を解くヒント』
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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