あかつきさん
レビュアー:
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「麻酔科ローテートした後に読んでみろよ」とその男は嗤って言った。
はい、懐かしい海堂のデビュー作。この本が出版されたのは研修中の時でした。
こんなこと書くと年齢がばれますが、わたしは臨床研修義務化の2年目にあたります。
臨床研修制度っつーのは今なお厚労省が迷走していますが、当時はとにかくローテートしなければいけない必修科が多くってさ。その上ただでさえ診療科が多い大学病院で研修したから毎月毎月診療科が変わるようなもんでした。しかもそれが1X年後現在役に立っているかと聞かれると、全く役に立ってはいないっつーね。
で、わたしの先に麻酔科を回っていた当時ちょっと色っぽい関係だった同期が、「麻酔科をローテートした後に読んでみろよ」と人の悪い笑顔を浮かべてくれたのがこの本だったわけです。
まあ皆さんご存知の通り、脅威の成功率を誇る外科チームが挑むバチスタ手術に術中死が連続し、それを万年講師の神経内科医と厚生省の変人役人が解決するっちゅー話ですが。
冒頭のバチスタ手術の説明から心臓掴まれましたね。
この段落だけで、読む価値あり。
因みに、第二作以降はこういう秀逸な表現はあまり見かけなくなってしまいました。残念。
現役医師だからこそ書ける、医療者の闇、医療体制へのぼやき、奇妙な診療体制や人事、コメディカルとの距離感や勤務体制の違い……。
特に急変時のフェスタのような狂騒は、体験者にしか表現できないと思う。
医療者は、夜中の病棟の心霊現象など怖くはない。
真に恐ろしいものは、死んだ者ではなく生きている患者が目の前で急変することだ。
音の下がるSpO2モニター音。反応がない意識。上転する眼球。動かない胸郭。見えない咽頭。入らない挿管チューブ。取れないルート。
足は震え、体幹は興奮で熱くなり、反対に頭は体温低下して不思議なほど冷静になる、あの、体と頭脳と心がバラバラになるような瞬間。
あの瞬間を経験した者は、確かにその記憶が快感として心に刻み込まれるかもしれない。
医療者なら、侵襲的手技をするとき、薬剤を投与するときにに必ず考えたことがあるはず。
(間違えたら殺すかも)
そして
(殺すのは簡単だな)
それを、航空機のパイロットに例えられる麻酔科医が考えてしまったら……。
どんな人間も、魔がさす事はある。
誰もいない店。盗み放題の商品。
寝ている乗客。無防備な鞄と無防備な脚。
さすがに犯罪には手を出さなくても、こんなことくらいはやってしまうのではないか?
例えばグラスに水が一杯になっているのに、もう一滴水を垂らしたくなってしまうとか。
これ以上重ねられないのに、更にもう一つ、石を重ねたくなってしまうとか。
「何故そんなことを?」
「どうなるか、考えただけでわかるでしょう?」
誰だって呆れて聞くだろう。
それをするかしないかは、倫理観とか常識とかの問題ではきっとない。
自分の故障を見過ごすかメンテナンスできているかの、ほんの些細な違い。
でも、それを医療者がやってしまうとどうなるのか。
『医者も壊れる』
では、壊しているのは誰なのか。
このシリーズが、医療界で受け入れられた理由は明白です。
ま、シリーズ途中で離れていったけどね。
こんなこと書くと年齢がばれますが、わたしは臨床研修義務化の2年目にあたります。
臨床研修制度っつーのは今なお厚労省が迷走していますが、当時はとにかくローテートしなければいけない必修科が多くってさ。その上ただでさえ診療科が多い大学病院で研修したから毎月毎月診療科が変わるようなもんでした。しかもそれが1X年後現在役に立っているかと聞かれると、全く役に立ってはいないっつーね。
で、わたしの先に麻酔科を回っていた当時ちょっと色っぽい関係だった同期が、「麻酔科をローテートした後に読んでみろよ」と人の悪い笑顔を浮かべてくれたのがこの本だったわけです。
まあ皆さんご存知の通り、脅威の成功率を誇る外科チームが挑むバチスタ手術に術中死が連続し、それを万年講師の神経内科医と厚生省の変人役人が解決するっちゅー話ですが。
冒頭のバチスタ手術の説明から心臓掴まれましたね。
肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術。余分なものなら取っちまえというラテンのノリ。こんな手術を思いつくだけですでに常軌を逸している。その上実行までしてしまうサンバの国、ブラジル。爆笑。
この段落だけで、読む価値あり。
因みに、第二作以降はこういう秀逸な表現はあまり見かけなくなってしまいました。残念。
現役医師だからこそ書ける、医療者の闇、医療体制へのぼやき、奇妙な診療体制や人事、コメディカルとの距離感や勤務体制の違い……。
特に急変時のフェスタのような狂騒は、体験者にしか表現できないと思う。
医療者は、夜中の病棟の心霊現象など怖くはない。
真に恐ろしいものは、死んだ者ではなく生きている患者が目の前で急変することだ。
音の下がるSpO2モニター音。反応がない意識。上転する眼球。動かない胸郭。見えない咽頭。入らない挿管チューブ。取れないルート。
足は震え、体幹は興奮で熱くなり、反対に頭は体温低下して不思議なほど冷静になる、あの、体と頭脳と心がバラバラになるような瞬間。
あの瞬間を経験した者は、確かにその記憶が快感として心に刻み込まれるかもしれない。
医療者なら、侵襲的手技をするとき、薬剤を投与するときにに必ず考えたことがあるはず。
(間違えたら殺すかも)
そして
(殺すのは簡単だな)
それを、航空機のパイロットに例えられる麻酔科医が考えてしまったら……。
どんな人間も、魔がさす事はある。
誰もいない店。盗み放題の商品。
寝ている乗客。無防備な鞄と無防備な脚。
さすがに犯罪には手を出さなくても、こんなことくらいはやってしまうのではないか?
例えばグラスに水が一杯になっているのに、もう一滴水を垂らしたくなってしまうとか。
これ以上重ねられないのに、更にもう一つ、石を重ねたくなってしまうとか。
「何故そんなことを?」
「どうなるか、考えただけでわかるでしょう?」
誰だって呆れて聞くだろう。
それをするかしないかは、倫理観とか常識とかの問題ではきっとない。
自分の故障を見過ごすかメンテナンスできているかの、ほんの些細な違い。
でも、それを医療者がやってしまうとどうなるのか。
『医者も壊れる』
では、壊しているのは誰なのか。
このシリーズが、医療界で受け入れられた理由は明白です。
ま、シリーズ途中で離れていったけどね。
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色々世界がひっくり返って読書との距離を測り中.往きて還るかは神の味噌汁.「セミンゴの会」会員No1214.別名焼き粉とも.読書は背徳の蜜の味.毒を喰らわば根元まで.
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