▼
ぞっとするような拷問シーンから始まる戦争小説でありながら、ワクワクするような冒険小説の側面をもち、あれこれ考えずにはいられないミステリであると同時にさわやかささえ感じさせる青春譚でもある物語。
彼女は取引をした。
引き替えにしたのは自分や他の誰かの「自由」ではなく
「睡眠」でも「食べ物」でも、
「三日間ずっと背中にくくりつけられている鉄の棒を取り除く」ことでもなく
スカートとセーター、ただそれだけだった。
汚れて臭いショーツ1枚だけを身につけたままの姿では
とても恥ずかしかったから。
セーターを返してもらうのに暗号を4つ、
スカートとブラウスにはそれより少し少ない情報で済んだ。
片方ずつの靴にも。
自殺でもされたら困ると思ったからだろうか。
スカーフは返してもらえなかった。
彼女にとってはお気に入りの、大事なスカーフだったのだけれど。
ナチスに占領されたフランスで、
囚われの身となっていたのは、うら若き美しい女性。
「イギリス女」と言われると即座に「スコットランド人だ」と反論する彼女は
ひとことで上流階級のものとしれる英語を話す誇り高いレディだった。
けれども、スパイとして捕まった彼女は
ナチスの拷問により身体だけでなく心までもずたずたにされていたのだった。
厳しい拷問をやめる代わりに求められた情報を書き続けることで、
命を永らえている彼女は
その報告書をまるで手記のように綴り続けた。
それはまるで闇にまぎれて共にフランスに渡ってきた親友、
女性飛行士マディを主人公にした物語のようだった。
バイク屋の孫娘マディが
どのようにして飛行機に魅せられ
飛行技術を身につけたのか。
常ならば交わることがなかったであろう
全く階層の違う二人の娘が
どうやって知り合い、親友となったのか。
人の名前、航空機の種類、基地の場所など、
一見、機密情報とは何の関わりもないように思われる青春譚にちりばめられた情報は、
戦況に、そして手記を書き綴る彼女の運命に、
どのような結果をもたらすものなのか。
囚われの身で書き綴られた手記には
謎めいた記述がたくさんあり、
ナチスの将校同様読者もまた
様々な推理をし、想像力をフル稼働しながら読み進めることになる。
痛々しい彼女の状況に身をすくめながらも
ページをめくる手が止らない一気読み必至の展開だ。
ところが、その手記は思わぬところで途切れ
続く第二部ではもうひとつ、
全く別の視点で書かれた手記が綴られていくのだ。
この二つ目の手記によって、
第一の手記の謎が次第に解き明かされていく。
そうして、物語の最後にたどり着いたとき
読者はもう一度、第一の手記に戻って
最初から読み直したい衝動にかられてしまうのだ。
史実より少し先を行くジェンダー観が小気味良い少女たちの物語は
思わずぞっとするような拷問シーンから始まる戦争小説でありながら
ワクワクするような冒険小説の側面をもち
あれこれと思い巡らさずにはいられないミステリであると同時に
さわやかささえ感じさせる青春譚でもあった。
今後のために
物語と共に作者を
そしてこの作品を自ら出版社に持ち込んだという翻訳者の名前をもあわせて
しっかり記憶にとどめておきたいと思わせる一作だった。
引き替えにしたのは自分や他の誰かの「自由」ではなく
「睡眠」でも「食べ物」でも、
「三日間ずっと背中にくくりつけられている鉄の棒を取り除く」ことでもなく
スカートとセーター、ただそれだけだった。
汚れて臭いショーツ1枚だけを身につけたままの姿では
とても恥ずかしかったから。
セーターを返してもらうのに暗号を4つ、
スカートとブラウスにはそれより少し少ない情報で済んだ。
片方ずつの靴にも。
自殺でもされたら困ると思ったからだろうか。
スカーフは返してもらえなかった。
彼女にとってはお気に入りの、大事なスカーフだったのだけれど。
ナチスに占領されたフランスで、
囚われの身となっていたのは、うら若き美しい女性。
「イギリス女」と言われると即座に「スコットランド人だ」と反論する彼女は
ひとことで上流階級のものとしれる英語を話す誇り高いレディだった。
けれども、スパイとして捕まった彼女は
ナチスの拷問により身体だけでなく心までもずたずたにされていたのだった。
厳しい拷問をやめる代わりに求められた情報を書き続けることで、
命を永らえている彼女は
その報告書をまるで手記のように綴り続けた。
それはまるで闇にまぎれて共にフランスに渡ってきた親友、
女性飛行士マディを主人公にした物語のようだった。
バイク屋の孫娘マディが
どのようにして飛行機に魅せられ
飛行技術を身につけたのか。
常ならば交わることがなかったであろう
全く階層の違う二人の娘が
どうやって知り合い、親友となったのか。
人の名前、航空機の種類、基地の場所など、
一見、機密情報とは何の関わりもないように思われる青春譚にちりばめられた情報は、
戦況に、そして手記を書き綴る彼女の運命に、
どのような結果をもたらすものなのか。
囚われの身で書き綴られた手記には
謎めいた記述がたくさんあり、
ナチスの将校同様読者もまた
様々な推理をし、想像力をフル稼働しながら読み進めることになる。
痛々しい彼女の状況に身をすくめながらも
ページをめくる手が止らない一気読み必至の展開だ。
ところが、その手記は思わぬところで途切れ
続く第二部ではもうひとつ、
全く別の視点で書かれた手記が綴られていくのだ。
この二つ目の手記によって、
第一の手記の謎が次第に解き明かされていく。
そうして、物語の最後にたどり着いたとき
読者はもう一度、第一の手記に戻って
最初から読み直したい衝動にかられてしまうのだ。
史実より少し先を行くジェンダー観が小気味良い少女たちの物語は
思わずぞっとするような拷問シーンから始まる戦争小説でありながら
ワクワクするような冒険小説の側面をもち
あれこれと思い巡らさずにはいられないミステリであると同時に
さわやかささえ感じさせる青春譚でもあった。
今後のために
物語と共に作者を
そしてこの作品を自ら出版社に持ち込んだという翻訳者の名前をもあわせて
しっかり記憶にとどめておきたいと思わせる一作だった。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
- この書評の得票合計:
- 60票
読んで楽しい: | 1票 |
|
---|---|---|
素晴らしい洞察: | 2票 | |
参考になる: | 50票 |
|
共感した: | 7票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント
- かもめ通信2017-04-05 06:33
#翻訳者POP という取り組みをご存じですか?
今、書店や図書館、SNSで、翻訳家の方々が自ら訳した作品を紹介するPOPが注目されはじめています。
こちらは ↓ 翻訳家の富原さんの西日本新聞に掲載された記事を含むツイート
https://twitter.com/hinajohn4/status/847059255374954497
そしてこちら ↓ 本書の翻訳者吉澤さんが書かれたPOP
https://twitter.com/urikoko/status/845553974799323136
https://twitter.com/urikoko/status/845252476605415424
本屋さんや出版社さんが作るPOPとはまたひと味違った味わいと
的確なセールスポイントが面白いので、ぜひ注目してみて下さい。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - タカラ~ム2017-04-05 09:10
北九州の八幡図書館ではこんな企画展示も!
特別展示『翻訳本を楽しもう~翻訳者POP☆司書POP』
https://twitter.com/KitaMicchon/status/848513606027059201
ウチの地元図書館でもやってほしい!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:東京創元社
- ページ数:475
- ISBN:9784488252045
- 発売日:2017年03月21日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。