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Wings to fly
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満州国建国の時代を多角的な視線で描いた歴史群像劇。
☆一、二巻目を合わせた書評です。

このシリーズとは二十年近くのお付き合いである。第一作『蒼穹の昴』は、貧農の息子が宦官となり、西太后の側近として紫禁城内廷に並ぶものなき威望を誇るまでを、清朝末期の怒涛の歴史を背景に描いた物語だった。西太后崩御後の清朝の崩壊、革命後の軍閥の台頭と張作霖爆殺事件を経てシリーズ五作目は『天子蒙塵』だ。天子は塵を蒙って逃げてはならぬ。追い立てられるのではなく、天命を戴いて堂々と去らねばならぬ。紫禁城を追われ転々とする清朝最後の皇帝・溥儀は思う。溥儀をはじめ中国・日本双方の何人もの語り部により、満州国建国を多角的に描いた歴史群像劇である。

一巻目は、史上初めて中華皇帝と離婚した溥儀の側室・文繍が語る。文繍の目に映る溥儀は、大清国の復活を願いながらも周囲に流され続ける滑稽で哀れな男だ。溥儀を利用したい人々の思惑が渦巻く中、春児、文秀、玲玲、シリーズファンには懐かしい顔ぶれが、それぞれの立場から祖国と皇帝一家を支えようとする。封建的なしきたりと愛のない生活に縛られ、精神の自由を求め飛び立った文繍の勇気が鮮烈だ。

二巻目は、日本と中国の視点が交錯しながら満州国建国前夜が描かれる。関東軍の暴走、いつか力を蓄え関東軍の頭越しに天皇や日本政府と繋がればよいと思う満州国総理・張景恵。張景恵が約束した満州国将軍の地位を捨て抗日に走る馬占山は、「還我河山」(我に山河を返せ)と壁に大書して去る。また、若き日本人将校は「戦争を抑止する要素は、軍隊自信の持つ記憶と良識に過ぎない。」と、日露戦争の記憶が失われた日本軍の行方を憂うる。太平洋戦争の記憶が薄れつつある今の日本を思わずにはいられない。治安維持法のもと、沈黙する者が善で沈黙せざる者が悪だという時代の、良心ある軍人の苦悩が印象的だ。

満州の地に様々な思惑が交錯し、歴史のポイントとなった決断や逃したチャンスがクローズアップされる。こんな道筋を通って今の日中の関係があるのだなあと、感慨深い。天命を持つ人間の手に渡るとされる「龍玉」というファンタジックな要素と共に、実在と架空の魅力ある登場人物を配して感動的に描いた人間ドラマである。作者は誰に「天命」を与えるのか、一巻目の最初に登場した張学良なのか?この後に実際何が起きたか知っていても、読む楽しみが薄れることはない。三巻目の発売をワクワクと待っている。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2017-05-30 16:23

    「マンチュリアン・レポート」ががっかりの出来だったので、それ以後全くノーマークでした。新シリーズもう二巻も出ているんですね。読まなくちゃ。ありがとうございました。

  2. かもめ通信2017-05-30 18:28

    「蒼穹の昴」?!ええ、あのシリーズまだ続いていたんだ?!
    知らなかった……私は「珍妃の井戸」止まりだったかな??
    昔勤めていた職場の上司がものすごくはまっていて、
    昼休みに涙を流しながら読んでいたのよねえ。
    うっかり現場を目にしてしまったものだから、読め読めとうるさくて
    借りて読んだ覚えがありますww
    面白く読んだはずだけど……あれ?ストーリーが全然思い出せない?!(汗)

  3. Wings to fly2017-05-30 20:16

    Yasuhiro さん
    「マンチュリアン・リポート」にちょっとガッカリは同感です(笑)
    でも「蒼穹の昴」が大好きだったもので、このシリーズは追い続けてしまうのです。今までの登場人物の「あの人は今」が語られる所、特に2巻目の最後に文秀と玲玲が故郷に帰り、春児が故郷に成し遂げた事を見るシーンは泣けますよ。

  4. Wings to fly2017-05-30 21:02

    かもめ通信さん
    貴女が「蒼穹の昴」をお読みになっていたという事に、ちょっとビックリ。歴史小説の書評をあまりお見かけしないから(^^) ストーリーが思い出せなくても無理ないですよ、20年前の作品ですものね。
    これ読んでつくづく、ホントに今の日本はヤバイと思いました。歴史小説、たまにはいかが(^o^)/

  5. かもめ通信2017-05-31 06:25

    え?そう?歴史小説、それなりに読んでいるつもりだったけれどな…。あ、そうか!確かに戦国武将もの(?)みたいなのはあんまり読まないかも。
    昔からどちらかというと日本史より世界史の方が好きだったし!w

    それにしてもあれからもう20年もたつのか~あの頃は私もまだ…ww

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