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Wings to fly
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卓抜した画力と魅惑的ストーリーで描かれた、写楽デビュー前夜の江戸町人文化。
江戸庶民的に感想を述べると「おっと!こいつはすげェ!」という感じである。私は作者のことを挿絵画家だと思っていた。江戸歌舞伎の世界を舞台にした『花合わせ・濱次お役者双六』(作・田牧大和)は、センスある表紙絵に惹かれて手にしたのだが、あれを描いたのがこの人だったとは。漫画家・一ノ関圭が描く江戸の世界に、圧倒された。

時代背景は、江戸に化政文化が花開く少し前、老中・田沼意次の没落と松平定信による寛政の改革の始まり頃。タイトルには「写楽」とあるが、東洲斎写楽は登場しない。彼はまだ上方からやってきた修行中の絵師・伊佐次である。伊佐次が脱皮して写楽となり、あのダイナミックかつ個性的な作品を版行する直前の町人文化、歌舞伎と浮世絵の世界に生きる人々の人間模様を描いている。そして、女児連続殺人事件がそこに絡む。五代目市川団十郎のひとり息子が、女の子と間違われて殺人犯に攫われた事件の顛末が、全体の話をつなぐ柱となっている。

寛政の改革の様々な禁止令が、どのように町人文化を痛めつけたか良くわかる。絵の検閲、歌舞伎の衣装や上演時間への干渉、それでも登場人物たちは自らの道に命を張っている。日本の文化芸術は、その道に生きる人々の執念と誇りに支えられて続いてきたのだとしみじみ感じる。歌舞伎役者とその家に生まれた子どもたち、蔦屋重三郎と絵師たち。芸道の厳しさ、また人気商売の華やかさの裏にある「闇」が、魅力的な登場人物を配して描かれる。舞台の囃子方として笛を吹いていた勝十郎は、兄の死により町奉行所同心の家を継ぐ。それが連続殺人事件解決と田沼失脚事件の双方に絡んでゆくストーリー構成、見事だ。

推理劇と役者の一代記を組み合わせたような話に引き込まれてゆく。親子の確執、持たざる者の逆恨み、努力と実力だけではどうにもならない世の仕組みがあった。それでも、舞台に酔いしれ絵に目を輝かせる人々のいる限り、彼らは命を削るのだ。歌舞伎役者への拍手喝采、摺り場に飛び交う緊迫した声、呼び声を響かせ物売りが通り過ぎる町、江戸の賑わいが聞こえてくる。そして、あの時代あの場所に生きた人々の哀歓が胸を打つ。エネルギッシュな江戸を見せてくれる絵が素晴らしい。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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この書評へのコメント

  1. そのじつ2017-09-28 07:10

    「続きがいつ読めるか分からない」地獄にようこそ!Wingsさん♡

    歴史背景から見ても、本作の説得力が高かったことを思い出させられました。
    主役が誰だか意識させないくらい、周囲を取り巻く民衆の存在感が濃厚な、いや江戸そのものが主役のような作品であったと、Wingsさんの感想でまた再認識させられました!

    あ〜また続きが読みたくなってきた〜!

  2. Wings to fly2017-09-28 10:36

    そのじつさん
    やっぱりやっぱりやっぱり、この本いただいて良かったです〜!ありがとうございました!
    町人文化の熱気渦巻く坩堝のような都市・江戸、芸道の光と陰、誰が主役の話でも面白くて夢中になりました。
    なんで五代目団十郎は息子の小海老に跡を継がせたくないのー⁉︎ 早く教えてー!…っと身悶えしています。

    今年、ビッグコミックに新連載始まったみたいですね!さわりだけ試し読みしましたけど、早く本にして一気に読ませて欲しいよね!(地獄の住人より)

  3. No Image

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