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Wings to fly
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ノートルダム寺院の醜い鐘番カジモドは、清らかな恋をした。15世紀のパリ、美しき石の都に運命の歯車は回る。
この書評は上下巻を合わせたものです。
ノートルダム寺院の修道士と、彼に拾い育てられた醜い鐘番は、清純なジプシーの踊り子エスメラルダに同時に恋をしてしまった。エスメラルダは美男だが不実な隊長を愛してしまった。登場人物は、それぞれの愛ゆえに運命に翻弄されてゆく。

祈祷と学問に身を捧げてきた聖職者のフロロは、のたうちまわるような激しい恋をする。一人を断頭台に送り一人を地獄へ落とさねばやまぬ、情欲と執念の恋であった。あまりにも容貌が醜く誰にも愛されたことのないカジモドは、恋した娘を断頭台から救い聖域ノートルダム寺院の奥深くへ隠してやる。はじめから、報われることをあきらめた恋であった。

娘はただ愛する男を夢に見て、不実な男は金持ちの娘を娶ろうとしていた。その関係の中に人畜無害の詩人や国王ルイ11世、エスメラルダの出生の秘密やパリの泥棒の巣窟「奇跡御殿」の連中などを絡ませ、物語はノートルダム寺院襲撃の壮絶なクライマックスへと進んでゆくのである。

作者ユゴーは、この愛と憎しみの物語の中に建築物と書物の芸術性の対比、中世の建築術と歴史の産物である15世紀パリの街の美麗な描写などを織り交ぜて描いている。これらは別の章立てになっており、この胸躍る物語だけを楽しみたい方は読み飛ばしても全くオッケーである。ただ、一見物語の興をそぐような文章の中には、作者の美学と哲学が息づいている。

この作品をもとに制作されたディズニーの「ノートルダムの鐘」は、とても楽しい映画である。しかし、原作を読んだ後には、無垢と邪念のコントラストの鮮烈が心に投げかける感慨の、唖然とするほどの差に気づく。ラストシーンの純な清らかさと哀れさは、しみじみとした感動を呼び起こす。

時に流され消えてゆく人の営為の儚さと、今も峻厳と起立するノートルダム寺院の威容。ユゴーが真に主役に据えたのは、実はこの麗しき大聖堂なのではないかとも思えてしまう。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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