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はにぃさん
はにぃ
レビュアー:
人間って強いようで弱いもの。だけど、人間って弱いようで強いのです。
映画「この世界の片隅に」を観てきました。
戦時下の広島で暮らす「すず」が主人公です。
すずは、絵を描くことが大好きなのんびりした少女です。
縁あって呉に嫁ぐことになりました。
最初は戸惑っていた婚家での暮らしですが、いつしか馴染んできた頃、戦況が悪化していきます。
辛いことをたくさん経験しながら、すずは次第にたくましくなっていく、というお話です。

映画館が明るくなった時の感情を、なんと表現したらいいのでしょう。

  なんだろう、この気持ちは。
  悲しくて泣いているんじゃない。
  ましてや、悲惨で可哀想と同情しているのでもない。
  なんだろう、この感動は。
  なぜこんなに清らかな気持ちになるのだろう。

この感動を抱えたまま本屋さんに走り、店員さんに「映画の原作本ありますか?」と聞いて渡されたのが本書です。
何も考えず、買って帰ってビックリでした。
原作はコミックで、これは映画をそのまま小説化したノベライズ版だったのです。
もぉ、お姉さんたら!

読んでみると、遊郭の女性との交流や夫の過去など、映画にはない場面がいくつもありました。
この本を読んで初めてそうだったのかと納得できたのです。
お姉さん、ありがとう!

映像をそのまま活字にしたような文章なので、あの感動がまた甦ってきます。

  戦争の苦しみに思わず洩らしたすずの本音。
  「なんでこんなことになるんじゃ。うちらが何をしたんじゃ」

  玉音放送を聞いたすずの叫び。
  「最後の1人まで戦うんじゃなかったのかね?」

  娘を亡くした母の慟哭。

思い出しては、胸がつまります。
だけど、決して戦争の悲惨さを必要以上に表現した作品ではありません。
苦しい状況下で工夫しながらたくましく生きる人々の日常が、笑いを交えて描かれているのです。
映画館では何度も笑い声があがりました。

 戦争中でも、草木は茂り、セミが鳴く。
 新型爆弾が落とされても、日はまた昇り、風が吹く。
 終戦を迎えても、お腹がすきご飯を食べる。
 母を亡くしひとりぼっちになってしまった少女にも、いつしか笑顔が戻る。

人間って、自分の意思とは関係ない大きな何かに巻き込まれ、簡単につぶれてしまう弱い存在です。
でも、つぶれても立ち直る強さを兼ね備えているのです。
この世界の片隅に生きているちっぽけな私も、あなたも、みんなが笑うて暮らせりゃええのにねえ。
そんなメッセージを受け取った気がしました。

※映画を観ずに本書だけ読むのはおすすめできません。
ストーリーを追った内容なので、世界観までは表現できていないと思うのです。
のどかな風景など絵の柔らかさ、シュッシュッとデッサンする鉛筆の音などは、映画でなければ味わえません。
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はにぃ
はにぃ さん本が好き!1級(書評数:483 件)

趣味はダンスと読書と食べること。

こちらに復帰してから読書計画が破綻気味です。
図書館の本も、期限内に読めずに返すということが増えてきました。
積読本も減らず。
それなのに読みたい本はどんどん増えていく・・・(´-ω-`)

気が向いたときに出没します。
どうぞよろしくお願いします。

読んで楽しい:11票
参考になる:15票
共感した:3票
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この書評へのコメント

  1. たけぞう2017-02-14 22:34

    はにぃさんとお姉さん、ありがとう。
    とても伝わる書評で、ああすごいと感動しました。あの時間が甦ってきます。
    自分の書評の至らなさを痛感しました。泣くことばっかり書いたら安っぽいですよね。楽しい部分もちゃんと書かないと、そんなふうに思いました。

  2. はにぃ2017-02-15 23:12

    多毛増さま ありがとうございます。
    そんな風に言ってくださって、とても嬉しく思います。
    日付表示を見ただけで「ああ、あの日が近づいてきた」とウルウルしたとか、他にもいっぱい思うことはあったのですが、削って削って短くしました。

    多毛増さまの書評は、褒める時もそうでないときも心情がよくわかる、感想を率直に素直に口に出している印象でとても参考になります。

    (お互い、いつになく真面目なコメントでしたねw)

  3. No Image

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