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星落秋風五丈原
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こぶがわたしでわたしがこぶで 嘘と皮肉がはびこる理想郷ライロニア 案外あなたの近くにあったりして…!?
 ある日ライロニアという国に行きたくてたまらなくなった兄弟が、偉いと言われている人達に片っ端から聞いて回った。ところがライロニアがどこにあるか誰も知らない。探しに探してすっかり二人が白髪頭になった頃、やっと地図の中の一枚にライロニアを見つけた。すっかり嬉しくなった兄弟は喜んで飛んだり跳ねたりするが、そのためにせっかく見つけた地図がまたどこかに紛れてしまった!…ああ無情。今度こそ諦めるしかない!と思ったその時、ライロニアから二人に小包が届く。届けてくれた郵便屋さんこそライロニアを知っているに違いない!兄弟は慌てて彼を追うが…。

 そして、謎の国ライロニアは…結局見つからなかった。「そこに行けばどんな夢も叶うと言うよ♪」と謳われた国もあったように、ライロニアも、現実には存在しない理想の共産主義国家の比喩かもしれない。そんな国からライロニア王国の住人に関する13の物語が届く(つまり本書)。13と言えば魔女の1ダースと言われている数であり、そのせいか、物語も人もちょっぴり奇妙。

 さて、トップバッターの『こぶ』は、石工アイヨに降りかかる災難の物語。災難とは奇妙なこぶが出来たことだ。医者があれこれ論議する中、こぶはどんどん育っていき、何とアイヨと瓜二つになってしまう。こうなると、「こぶ」と呼んでよいものか。いや、あろうことか、「こぶ」が口をきき、自分こそがアイヨだと宣言する。さぁ、アイデンティティの危機に陥ったアイヨ、どうなる?

 ライロニア王国にはどこかで見たことのあるような人が住んでいる。例えば「有名な人」のタトは、世界最高になることを夢見ている。ところが背丈は中くらい、飛び抜けた才能もない。「じゃあ平凡な人生でもいいか」と諦められなかったタトは、「世界一長いズボンの持ち主」「世界一はげ頭の人」「世界一のネクタイ替え男」と、第三者から見れば「なんなんだそれは」と言われそうな目標に向かって邁進する。彼の野望は叶うのか?

 ちなみにこれを書いたのは、1960年代、まだソ連が東欧諸国を支配していた頃のポーランド出身の哲学者である。じっくり読めば住人に訪れた危機を、彼等がどうやって乗り越えていくかを通じて「人生とは何ぞや?」など、哲学の真髄を語りかけている…のが聞こえる、かもしれない。
 
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2331 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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