efさん
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何と哀切に満ちた悲しい物語なんだろう
本書には表題作の他、短い物語2編が収められています。
その中から、表題作の『黄色い雨』をご紹介しましょう。
物語の語り手は、アイニューリェという村に住む老人です。
ここは山間の村で、かつてはそれなりの数の人々が住んでいたのですが、徐々に村を出る者が増えて行きます。
猟と果樹園に頼っているような貧しい村であり、人々が村を捨てて出て行くのも仕方がないことなのかもしれません。
そして、遂に、語り手夫婦とその家の一匹の雌犬しか村にいなくなってしまうのです。
こうなるともう実質的な廃村であり、村の家々は朽ちて崩れていくのですが、何故か語り手夫婦は村を出ようとはしません。
あるいは、妻は村を出たかったのかもしれませんが……。
ある日、妻は首を吊って自殺してしまうのです。
村に取り残されたことを苦にしたのでしょうか?
語り手は、妻が首を吊った縄を見るのも嫌で、家の外に放り投げてしまいました。
その後、冬が訪れ、雪が降り積もり、縄はすっかり雪に埋もれてしまいました。
すっかり縄の事など忘れてしまっていたというのに、春が来て、雪が溶けた時、あの縄を見つけてしまうのです。
語り手は、その縄を拾い、自分の腰に巻き付けたのでした。
もう、一人で暮らしていくしかありません。
しかし、それでも語り手は村を出ようとはしないのです。
罠を仕掛けて猟をし、果樹園になる果物を食べて生きていました。
それは、10年もの長い年月に及んだのです。
しかし、ある年、大変な雪が降りました。
仕掛けた罠も雪に埋まってしまって回収できなくなり、食料貯蔵庫にあったじゃがいもだけで飢えをしのがざるを得なくなります。
どうにもならなくなった時、語り手は山を下りて、一番近い村に歩いて行き、食べ物をもらおうとしたのです。
しかし、山から下りて来た語り手が家々のドアを叩いても、誰も出ては来ませんでした。
語り手はすっかり見捨てられてしまっていたのです。
恥をしのんで、食べ物をもらいに来たというのに。
語り手は、一人で山へ帰っていきました。
もう、死を待つしかなくなってきます。
誰もいないところで、一人で死を迎える心境はどのようなものだったでしょうか。
語り手は、しばらく前から既に亡くなっている家族の亡霊を見るようにもなっていました。
語り手はそれを歓迎してはいないのですが、あるいはそれは語り手の心の中の、誰か他者を求める気持ちが見せた幻覚だったのかもしれません。
自分が死んだら、そのことにはいつになったら、誰が気づいてくれるだろうか?
村では、人が亡くなった時、そのことを誰かに教えることにより、亡くなった者の魂を送ることができると考えられていました。
最後に聞いた者は、もう教える者がいないので、石に話しかけたりするのです。
語り手の妻が亡くなった時、語り手は妻の死を教える相手が誰もいなかったことから、果樹園の老木にそのことを話して妻の魂を送ったのでした。
そうしたところ、既に実をつけなくなっていた老木が花を咲かせ、たわわに実を実らせたのでした。
それは、妻の魂がつけた実だと分かっていた語り手は、その実を食べることはありませんでした。
自分が死んだら、誰が自分の魂を送ってくれるというのでしょうか?
そして、それはいつのことになるのでしょうか?
最後に、語り手は一匹だけ残っていた雌犬を撃ち殺しました。
一発だけ取っておいた銃弾を使ったのです。
自分が先に死んでしまったら、雌犬は自分を食って生き延びることになったのだろうかなどと思いながら。
いつか、誰かがこの村にやってくるだろう。
しかし、家々はもう崩れてしまい、すっかり様変わりした村で自分のことを見つけるのには苦労するだろう。
村にやってきた者は、服を着たままベッドに横たわっている自分を見つけるだろう。
語り手は、そう考えるのでした。
なんとも辛い気持ちにさせられる作品でした。
自分も、いつかそのうち、死ぬ時がきます。
その時、誰かがそばにいてくれる保障などありません。
もしかしたら、この語り手のように、一人で死んでいくことになるかもしれません。
それ自体は悲しいことでしょうか?
それを見ている側の方が、あるいは悲しいのかもしれません。
読了時間メーター
□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
その中から、表題作の『黄色い雨』をご紹介しましょう。
物語の語り手は、アイニューリェという村に住む老人です。
ここは山間の村で、かつてはそれなりの数の人々が住んでいたのですが、徐々に村を出る者が増えて行きます。
猟と果樹園に頼っているような貧しい村であり、人々が村を捨てて出て行くのも仕方がないことなのかもしれません。
そして、遂に、語り手夫婦とその家の一匹の雌犬しか村にいなくなってしまうのです。
こうなるともう実質的な廃村であり、村の家々は朽ちて崩れていくのですが、何故か語り手夫婦は村を出ようとはしません。
あるいは、妻は村を出たかったのかもしれませんが……。
ある日、妻は首を吊って自殺してしまうのです。
村に取り残されたことを苦にしたのでしょうか?
語り手は、妻が首を吊った縄を見るのも嫌で、家の外に放り投げてしまいました。
その後、冬が訪れ、雪が降り積もり、縄はすっかり雪に埋もれてしまいました。
すっかり縄の事など忘れてしまっていたというのに、春が来て、雪が溶けた時、あの縄を見つけてしまうのです。
語り手は、その縄を拾い、自分の腰に巻き付けたのでした。
もう、一人で暮らしていくしかありません。
しかし、それでも語り手は村を出ようとはしないのです。
罠を仕掛けて猟をし、果樹園になる果物を食べて生きていました。
それは、10年もの長い年月に及んだのです。
しかし、ある年、大変な雪が降りました。
仕掛けた罠も雪に埋まってしまって回収できなくなり、食料貯蔵庫にあったじゃがいもだけで飢えをしのがざるを得なくなります。
どうにもならなくなった時、語り手は山を下りて、一番近い村に歩いて行き、食べ物をもらおうとしたのです。
しかし、山から下りて来た語り手が家々のドアを叩いても、誰も出ては来ませんでした。
語り手はすっかり見捨てられてしまっていたのです。
恥をしのんで、食べ物をもらいに来たというのに。
語り手は、一人で山へ帰っていきました。
もう、死を待つしかなくなってきます。
誰もいないところで、一人で死を迎える心境はどのようなものだったでしょうか。
語り手は、しばらく前から既に亡くなっている家族の亡霊を見るようにもなっていました。
語り手はそれを歓迎してはいないのですが、あるいはそれは語り手の心の中の、誰か他者を求める気持ちが見せた幻覚だったのかもしれません。
自分が死んだら、そのことにはいつになったら、誰が気づいてくれるだろうか?
村では、人が亡くなった時、そのことを誰かに教えることにより、亡くなった者の魂を送ることができると考えられていました。
最後に聞いた者は、もう教える者がいないので、石に話しかけたりするのです。
語り手の妻が亡くなった時、語り手は妻の死を教える相手が誰もいなかったことから、果樹園の老木にそのことを話して妻の魂を送ったのでした。
そうしたところ、既に実をつけなくなっていた老木が花を咲かせ、たわわに実を実らせたのでした。
それは、妻の魂がつけた実だと分かっていた語り手は、その実を食べることはありませんでした。
自分が死んだら、誰が自分の魂を送ってくれるというのでしょうか?
そして、それはいつのことになるのでしょうか?
最後に、語り手は一匹だけ残っていた雌犬を撃ち殺しました。
一発だけ取っておいた銃弾を使ったのです。
自分が先に死んでしまったら、雌犬は自分を食って生き延びることになったのだろうかなどと思いながら。
いつか、誰かがこの村にやってくるだろう。
しかし、家々はもう崩れてしまい、すっかり様変わりした村で自分のことを見つけるのには苦労するだろう。
村にやってきた者は、服を着たままベッドに横たわっている自分を見つけるだろう。
語り手は、そう考えるのでした。
なんとも辛い気持ちにさせられる作品でした。
自分も、いつかそのうち、死ぬ時がきます。
その時、誰かがそばにいてくれる保障などありません。
もしかしたら、この語り手のように、一人で死んでいくことになるかもしれません。
それ自体は悲しいことでしょうか?
それを見ている側の方が、あるいは悲しいのかもしれません。
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:210
- ISBN:9784309464350
- 発売日:2017年02月07日
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