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かもめ通信
レビュアー:
今の時代にいたならば“メッタ斬り”書評でならしたかもね?!
ikuttiさん主催の掲示板企画「生誕150周年祭!みんなまとめておめでとう」
参加すべく何を読もうかと考えたとき
7人のうち「斎藤緑雨」に目をつけたのは、
彼についてほとんどなにも知らなかったことと
なんとなく名前の字面が綺麗だったからという理由からだった。

まずは内田魯庵の書いた人物評を読み
その後代表作とされる『油地獄』を読み
さらに緑雨自身の自信作だという『かくれんぼ』も読んではみたのだが、
『かくれんぼ』の方は今ひとつピンとこなかった。

さすれば、もう少し外堀から攻めてみようかと手にしたのがこの評伝だ。

緑雨の生まれやその業績、交友関係の粗筋は
内田魯庵で押さえてはいたので
重複する部分もあるが
(ああ、あのエピソードの裏にはこんな事情があったのね)とか
(魯庵がああ言っていたのはこのことか!)といった
気づきがあって飽きはこない。

とりわけ興味深いのは一葉とのやりとり。
一葉の日記の引用から浮かび上がる緑雨像は実に興味深く、
ついでに一葉の日記まで積んでしまいそうなぐらいだ。

ところで一葉といえば、
森鴎外が彼女の才能を高く評価していて
一葉の葬儀の際、「騎馬で棺側に従いたい」と申出たものの
親族に断られたという話を知っている人は多いと思うが、
一葉の葬儀だけでなく、彼女の死後もその母や妹の世話を焼き、
母が亡くなった時には葬儀の手配をし、
一家の借金の後始末までしてやり、
やがて妹から一葉の日記を託された人物が
斎藤緑雨だという話を知っている人はどれぐらいいるのだろう。
私はこの本を読むまで全く知らなかったのだけれど…。


この本は斎藤緑雨の評伝ではあるのだけれど、
堅苦しい研究書というよりは、
ロマンチストな文士ファンが語る緑雨伝といった雰囲気で
途中一葉とのエピソードに熱が入るあまり
主役が誰だかわからなくなりかけるようなところもあるが
総じて読みやすく、
立場や意見が異なっていても登場する文士達は皆
それぞれ個性的でかつ魅力的だ。

一葉の名を文壇にしらしめたのは
鴎外を中心に編集されていた文芸誌「めさまし草」。
この雑誌、文学評論には定評があり
鴎外、露伴、緑雨の3人による「三人冗語」の新作合評が大きな呼び物だったそうで
そこで「たけくらべ」がとりあげられ絶賛されたことで
一葉の作品に大きな注目が集まったのだという。

いうまでもなく鴎外は外国文学にも精通していて
露伴は漢文にも造形が深い学者肌、
それに対し緑雨は、弟たちを進学させるために自らは学問の道を諦め、
10代の頃から新聞社の下働きをはじめたという苦労人で
学歴に対するコンプレックスをもっていたよう。
けれども、持って生まれた才能か
文才と吸収力は抜群で
相手の文体を真似て批評文を書いたり
相手が誰であろうと歯に衣着せずに鋭く切り込むその批評は
多くの文士を恐れさせていたようだ。

それでも坪内逍遙は緑雨を
義理堅い、臆病といつてよいほどに用心深く、
気の小い、併しながら頗る勝気な、
随って阿諛追従は大嫌ひ、すぐ剝るやうな虚言などは決して吐かぬ、
自尊心のある、見識高い
人間として好感をもち、
少なからぬ益を受けし人の一人として
鴎外と露伴と共に敬意を示して交際をしていたという。

また島崎藤村は
緑雨はもっと認められても好かった人だ。
多くの先輩からは彼は煙たい人であったに相違ない。
彼には殆ど譲歩といふものが無かったから。
しかし彼に接した人達は、彼を好むと好まざるとに関わらず、
皆な心に畏敬の念を抱いて居た。
と書き残している。

その一方で田山花袋などは、緑雨たちの「三人冗語」を
「大家達のあたらしい時代に対する妨禦運動」であるなどと
批判していたようだし、
内田魯庵もまた古い時代の文士だと切り捨てるような発言をしていた。

時代の限界も偏屈ぶりも視野の狭さもあったかもしれないが
先輩たちからは疎まれ
後輩たちからは守旧派扱い
それでも一目も二目も置かれた毒舌書評家緑雨。

30代半ばで結核で亡くなったこの男、
幸徳秋水や幸田露伴と育んだ深い友情をみても
生きることには不器用で生真面目な好青年に思われた。

今度は緑雨の“名作メッタ切り書評”でも
どこかにないかと探してみようかと思ったりしている。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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