書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぽんきち
レビュアー:
ギリシアの自然哲学から現代のメガサイエンスまで、「科学」の誕生と発展を追う
元々は放送大学のテキストであったものの書籍化。
おそらく一時限ごとの講義をそのまま章立てしているのだろうと思うのだが、1章ごとに簡潔にまとまっていて非常に読みやすい。
西洋自然科学の大きな流れをざっくりと追うには好都合な入門書である。

ギリシアの自然学は2500年ほど前に始まる。神のお告げとされてきた自然現象の原因を、論理的に考察しようとしたのがタレスやその後継者たちだった。論理的に物事の原因を突き詰めていこうとすると、万物の根源は何かという問題にぶつかる。数、原子(アトム)、4種類の元素(火・空気・水・土)など、さまざまなものが物質の元だと唱えられた。
ギリシアの時代、哲学と科学は不可分であり、学者たちは自然の探究を通し、数学的・哲学的・天文学的な考察を重ねていた。

ローマ帝国は自然哲学よりも実用的な技術を重視した。ギリシアの自然科学は、東に流れ、アラビアに継承されていく。現代でも使用される「アルジェブラ(代数)」や「アルゴリズム」はアラビア語起源である。12世紀になり、ギリシア科学はアラビア語からラテン語に翻訳されて西欧に逆輸入される。
そうした中で、アリストテレス哲学とキリスト教神学との齟齬が認識されるようになっていく。神学の枠の中で、アリストテレス自然学の問題点の検討が行われていた。

中国では独自の科学が発展していた。暦が非常に重要視されていたため、付随して天体観測や天文学の発展が顕著だった。
中国では、火・水・土・木・金が五元素とされる「陰陽五行説」が元となった自然観や宇宙論が支配的だった。
三大発明とされる製紙術、火薬、羅針盤は中国から西洋に技術移転されるほど、技術的には進んでおり、造船技術も発達していた。
だが15世紀以降、中国では遠洋航海が廃れていき、一方で欧州では大航海時代が始まり、このあたりを境に、科学の発展は欧州の方がめざましい勢いを見せていく。

西洋天文学の大きな出来事といえば、地動説の発見だろう。
惑星の運動が楕円軌道であることは、今でこそ「そういうもの」として習うが、そこに行き着くまでは簡単ではなかった。地球上にいてわかることは、それぞれの天体が天をどのように移動するかである。観測結果をさまざまなモデルに併せていくわけだが、前提が天動説である場合、ずれが生じてくる。これに併せてモデルが複雑化し、周転円(地球の周りに円があり、その円軌道上の一点を中心に惑星がころころ回る小さい円軌道があるとする)、離心円(惑星軌道は円だが、地球は中心から外れている)、エカント(離心円の反対側に仮想点があり、その点に関して惑星が等しい角速度で回る)などの考え方が提唱された。考えるだにややこしいが、観測結果に合致させるには、そうした複雑なモデルで微調整しなければならなかったわけである。
16世紀後半、神聖ローマ皇帝の元で観測に励んだティコ・ブラーエのデータを元に、ケプラーが惑星軌道が楕円であるとうまく当てはまることに気付く。
17世紀、ガリレオがコペルニクスの説を継承する形で地動説を提唱する。だがその後、宗教裁判に発展したのは周知の通りである。

天文学が悪戦苦闘していた頃、一方で発展していたのが錬金術だった。先ほど触れた天文学者のティコ・ブラーエは、また錬金術にも強い関心を示していた。ティコの知識は16世紀前半のパラケルススによるものだった。
パラケルススは元々医学者だったが、ギリシャ以来の体液バランスが崩れることにより病気になるとする考え方に異を唱えた。パラケルススは、外界からなんらかの「種子」のようなものが体内に入り込むことで、よいものと悪いものが生じ、悪いものが病気の原因となるとした。
こうした現象は地中でも起こっており、「種子」が地中に入って成長し、生じたよいもの(=純粋な金属)を抽出することが可能であるとしたのが錬金術である。
言うなれば「自然魔術」だが、遠隔的に作用する力があるとするのは、当時の「常識」からは荒唐無稽とも言えなかった。
パラケルススは多くの追随者を生んだ。彼らは、さまざまな事象の記録を蒐集していった。一見、現代科学とは遠いようではあるが、こうした知識が蓄積されたことは、後の科学の発展にも寄与していた。
フランシス・ベーコンは、実験研究という考え方でこうした記録を扱う方法論を提唱し、後世の研究への道を拓いた。

18世紀のニュートンは近代科学革命の総仕上げを行う。
ニュートンは科学史上の巨人だが、その大きな発見の1つ、「万有引力」の概念が生まれる陰には、実は錬金術があったのではないかという説が有力視されてきている。ニュートンが、一時期、錬金術に傾倒していたことはよく知られている。当時、宇宙には「エーテル」という物質が満たされており、力はその移動を通して伝わると考えられていた。ニュートンの万有引力説は、力が遠隔的に働くとする。この発想はむしろ、当時のトレンドに即しているというよりは錬金術的である(実際この点から、魔術的自然観の復活とも非難されたという)。

ニュートン以後、ラボアジェによる燃焼理論、ドルトンの原子論を経て、近代の化学の礎が築かれる。
数学を用いて、光や電流、熱、電磁波などの物理的事象を説明する数学的実験物理が形作られていき、古典物理学が成立していくのは19世紀のことである。ファラデーは電気と磁気に関する多くの実験を行った。
20世紀のアインシュタインの登場により、古典物理学は完成し、相対性理論が誕生することで、物理学は新たな時代を迎える。

本書では、有機化学、量子力学、原子物理学、巨大科学までを追っている。
興味のある方には有意義な読書となることだろう。

第一章のタイトルが「西洋科学の精神」とされているが、これが実のところ非常に重要なのではないかと思う。さまざまなものが積み重なって現代科学となってきているわけだが、その時代ごとにわかっていないこともあり、開発されていない技術もある中で、手探り状態で仮説を立てて、それを証明しようとしていくわけである。
これは正しそうだが本当に正しいのか、突き詰めて考えていこうとする姿勢こそが、「科学」という学問の源だろう。誰かが提唱した理論を知ることで満足するのではなく、生じた疑問を丁寧に検証し、ありうる可能性を考察していくことが「科学」の基盤なのだ、ということが、科学史から読み取れるように思う。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

読んで楽しい:5票
素晴らしい洞察:3票
参考になる:26票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『〈科学の発想〉をたずねて 自然哲学から現代科学まで (放送大学叢書 12)』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ