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紅い芥子粒
レビュアー:
結核、ハンセン病、梅毒、鬱…… 人々を悩ませ苦しめてきた病をテーマにした英米文学の短編集
この本に収められているのは、14の短編。
E.ヘミングウェイ、S.M.モーム、コナン・ドイル、ドリス・レッシング等々、新旧の名だたる作家たちの名前が並ぶ。

人々を苦しめ、悩ませてきた病をテーマにした作品が、九つのブロックに分けて掲載されている。
1、消耗病・結核 2、ハンセン病 3、梅毒 4、神経衰弱  5、不眠  
6、鬱  7、癌 8、心臓病  9、皮膚病

サマセット・モーム「サナトリウム」は、1947年の作品。
結核療養所の患者たちの人間模様を描いた短編である。
長い患者では、17年もここにいるという。
検温して食事して、あとはぶらぶらしているだけの日々。その間、世界は戦争だった。
いまさら社会復帰したって、世の中についていけないし、家族にだって迷惑だし、自分は死ぬまでここにいるよと、その人は語る。
男女の愛が中心の物語だが、そんなことより、療養費もずいぶんかかるだろうに、なんていらざる心配をしてしまった。サナトリウムで長期間療養できたのは限られた富裕な人で、貧しい人たちは結核を病んでも血を吐きながら働いていただろうに。
堀辰雄の「風立ちぬ」や太宰治の「パンドラの匣」を読んだときも、サナトリウム小説って、なんだか浮世離れしていると感じたものだ。


コナン・ドイル「第三世代」は、1890年代の作品。
結婚直前になって、梅毒を発症した青年の絶望を描いている。
祖父の放蕩の因果が父から子へと遺伝したのだという。本人もその父親も、品行方正なのに。コナン・ドイルは医師でもあるのに、この時代はそういう認識だったのかと驚いた。
ハンセン病もそうだが、症状が外見に現れるせいで、患者は肉体の苦しみだけでなく差別や偏見に苦しむことになる。

ドリス・レッシング「19号室へ」は、1965年の作品。
能力があり経済的にも自立していた女性が、結婚して主婦となる。
裕福な家庭、理解のある夫、かわいい四人の子ども。だれもがうらやむ生活なのに、自己喪失感にさいなまれ、鬱になり自殺してしまうまでが丹念に描かれている。
贅沢な悩みと切って捨てる人も多いだろうが、共感する女性は多いだろう。

「癌 ある内科医の日記から」の作者サミュオレ・ウォレンは、19世紀の作家である。
ある資産家の夫人が癌になり、手術を受けた。
それだけの話なのだが、自宅で麻酔もうたずに、患部を切除したのだから、この時代の外科治療はおそろしい。美貌の若いブルジョワ夫人は、出張中の夫からの手紙を心の支えに、乳房を失う手術に耐えぬいた。
日記に書きとめずにはおられなかった医師の気持ちもわかる気がする。

他の収録作品は以下の通り
「村の誇り」ワシントン・アーヴィング、「コナの保安官」ジャック・ロンドン、「ハーフ・ホワイト」ファニー・ヴァン・デ・グリフト・スティーブンソン、「ある新聞者の手紙」アーネスト・ヘミングウェイ、「黄色い壁紙」シャーロット・パーキンス・ギルマン、「脈を拝見」O・ヘンリー、「清潔な、明かりのちょうどいい場所」アーネスト・ヘミングウェイ、「眠っては覚め」F・スコット・フィッジランド、「一時間の物語」ケイト・ショパン、「ある『ハンセン病患者』の日記から」ジョン・アップダイク
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:563 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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