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ぽんきち
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ブンガクはもう死んでいる、のか・・・?
ゾンビ小説x文芸・時流評論、といったところか。
ゾンビものが特に好きなわけでも詳しいわけでもないのだが、新聞書評で興味を引かれた。

突然、街に理由もわからずゾンビが出現する。なぜ現れるのか、どう対処すればよいのか、不条理世界が展開する中、文学界に身を置く人々を中心にした群像劇。
時におかしく、時にぞわりと、エンタメ要素も含みながら時勢を斬る鋭さもある。
パニック小説でもありディストピアものとしても読める。

コンテクストとは文脈のことである。
ゾンビものというのは、ある種、お約束のパターンがある。青白い顔をしてゆっくりと歩く。ゾンビに噛まれたらやはりゾンビになる。人としての感情は持たない。人間はただの餌になり、生のままむさぼり喰われる。時には走るゾンビが現れたり、動物のゾンビが現れたり、バリエーションもある。
そんなゾンビだが、主体性をもって行動しているというよりも、同じパターンにはまり込んで、「何者かに操られ」ているようにも見える。
だが、それはゾンビだけのことなのか? ブンガクだって、誰も彼も今までに誰かが書いてきたものに多少手を加え、あたかも新しいものを作り出していると思い込んでいるだけなのではないか? 作家然とした顔をしていても、実はもう「終わって」いる作家が多いのではないか?
さらには、それは文学界だけのことなのか? ある程度、専門性を追求すると、それはその分野内のお決まりを追っているだけで、決まった枠組みの中で右往左往しているだけなのではないか。真の創造性はそこにあるのか?
すなわち、多くの人が、「文脈」に乗って時代を漂っているだけなのではないか、ならばそれはゾンビとどれほど違うのか、というのが本作のキモである。

鋭さはあるが俗物性もある、著者を思わせるKという作家。古典を読み込み、納得のいく作品のみを書こうとしている寡作の桃咲カヲル。片田舎で作家を夢見る南雲晶。セクハラで女性編集者に嫌われる往年の大作家。作家たちの機嫌を取りつつ、自分のしていることに疑問を抱く若い編集者。著者も含め、実在の人物のカリカチュアライズは笑わせつつも相当のブラックさだ。
こうした人々に加え、金科玉条のごとく「区民の皆様のため」と奉仕を強いられる区役所職員、特殊能力を秘めた女子高生、深夜ラジオのカリスマ・パーソナリティもストーリーに絡む。

文脈にしたがうということは、空気を読むことにもつながる。お約束から外れたものを排除する先には、あるいはファシズムが控えているかもしれない。
危機的状況の中で、草食動物が群れるように、人々は「同じ」であろうとするのだが、それは果たして最善の道なのか。

著者を一番反映していると思われる「K」は、自身の名前から取っているのだろうが、どこか、カフカが使った「K」も思い出させる。
不条理に見えて、実は現実からそう遠くない世界がここでは描かれているのかもしれない。

ただ、全体としてのまとまりは非常によいとは思えなかった。群像劇だが、もう少し登場人物を絞ってもよかったようにも思う。料理としての味わいがアンバランスとまではいかないが、よくこなれている部分と生煮えの部分が混在しているような印象だ。ただ意外に「生煮え」の部分にこそ、この著者の着眼点の鋭さが潜んでいるようにも思われ、何となく意識に「引っかかり」続ける著者のような気がする。

この著者の作品はまた読むことがあるかもしれない。


羽田圭介作品
『文學界2015年3月号』(「スクラップ・アンド・ビルド」初出誌)


*ゾンビといえば、以前、本をご恵贈いただいて読んだことがありました。
『ゾンビでわかる神経科学』
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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