書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

はるほん
レビュアー:
光秀は山椒でありネギであり、ワサビである。
明智光秀と言えば、世間一般イメージは「逆賊」であろう。
そのため京都の時代祭にも登場しないし、
11日間の革命を1週間差し引かれ「三日天下」呼ばわりされる。
そんな彼の領地が滋賀県坂本であり、ワタクシの地元である。

が、滋賀の光秀愛は微妙である。
責めることも持ち上げることも無く、生ぬるく見守っている。
数年前にゲームや歴女ブームにのっかったのか
うら寂しい湖岸にハニワみたいな光秀像が建ったが、
アレならやらない方がよかった。

確かに光秀は難しい。
主役にするにはオチがグダグダだし、
正義とするにはビミョウであり、悪にするには善人過ぎる。
中途半端なのである。(言っちゃったよ)

今までにも光秀を(というか本能寺の変を)扱った作品は読んだが
そもそもその動機が謎のままであるが故、
多くの著者が手を尽くすものの、どうも輝かせにくい。
が本書はある意味、そういう筆を尽くすことをやめたといえる。
本能寺や信長との確執は、すっぱり省いてある。

「光秀と言えば」という当然の味付けをしなかったことが、
逆に光秀と言う素材を出す面白い作品になっている。


風来の坊主と武芸者。
この二人が牢人時代の光秀と知己となる、という設定で始まる。
坊主がほぼ主役のようなモノなのだが、
彼の仏道の「無常」を通して、この下克上時代の混沌と
信長という型破りな人物がみえてくるから不思議だ。

ストーリーの要に、この風来坊主のやる博打がある。
 ①4碗のどれかに石がある ∩ ∩ ∩ ∩
 ②どれかを1つ選ぶ   →∩ ∩ ∩ ∩    
 ③他の空の2碗を見せる →∩ ∪ ∩ ∪
 ④ここからもう1度選ぶ
さてあなたは碗を変える?変えない?

石が出れば勝ちで、出なければ坊主の勝ちである。
半々の勝率に見えるが、不思議と最終的には坊主が勝つ。
そのカラクリが光秀には分からないのだが、信長はなんとなく察する。
詳しくは「モンティ・ホール問題」と言う確率計算をぐぐっていただくとして
実は変えた方が勝率が高くなる。

え、なんで?と思われるのも無理はない。
一説にはコレは心理パラドックスとも言われる。
事実「確率」の問題であり、一発正解を当てるマジックではない。
そういう意味では「んー?」と思うトコロもあるのだが、
話の運びかたが面白く、手垢のついた歴史ネタでありながら惹かれる。

「信長が殺される理由」とでも言うべきものがすとんと胸に落ちる。
いわゆる「なぜ光秀は変を起こしたか」という謎には迫らずとも、
歴史上での光秀の存在意義が腑に落ちる。


大河・真田丸の光秀は、信長に打擲されるシーンのみのナレ死退場だった。
※ナレ死…ナレーションによって死ぬストーリー割愛
が、彼が居るからこそ信長や秀吉のキャラが立つ。
鰻に山椒・納豆にネギ・寿司にワサビのごとく
歴史に風味や歯ごたえ、インパクトを添えている。

彼はそれでいい。
大河の主役を張るにはグダグダかもしれないが
光秀は歴史上の必要悪であり、理(ことわり)だ。
これからも光秀自身が輝くことはないかもしれないが、
自分としては変に美化した光秀を作られるより
動点Pとして歴史の定理に在る彼の方が好きだ。

…それだけに滋賀の黒歴史・ハニワ光秀に
なんとかならんかと心が痛むのである。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

読んで楽しい:24票
素晴らしい洞察:2票
参考になる:13票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. はるほん2017-01-03 22:08

    あけおめです。
    2017年も評あげつつ、どさくさに滋賀の番宣をしたく候。
    どうぞよろしくお願いしまーす。

    明智ハニワ光秀添付。

  2. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『光秀の定理』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ