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かもめ通信
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人種も国籍も違う人たちが次々と登場するある意味グローバルな物語なのだが、突飛に感じることはなくむしろ極めてオーソドックスな筆運び。物語からにじみ出てくる作家の人生観、世界観といったものが興味深い。
張鼓峰事件を研究するロシア人の歴史家が
モスクワの一角で開かれたとあるホームパーティーで見かけた
チャイナドレスを着たとても美しい日本人女性の正体。(「ハサン湖」)

自他共に認める完璧主義者のセルビア人女性が
若い頃からずっとうらやましいと思っていた
美しく奔放な親友の心の内。(「しあわせもの」)

ニーナが自慢の赤毛をターバンで隠していたその訳は。(「赤毛の女」)

三つの物語とも
心の内をあれこれ語る語り手には知り得ない真実を知っているのは
夜空に浮かぶ月だという連作短篇。(『月の物語』)

ひと組の若いカップルの日記と
女性が友人に宛てた手紙が描き出すのは
ちょっと意外な物語。(『選択』)

3つの連作短篇と1つの中編が収録されたこの本を執筆したのは
旧ユーゴスラビア生まれの
作家であり翻訳家であり、写真家でもあり舞台女優でもあるという多才な女性だ。
ベオグラード大学の日本語学科を卒業したという彼女は
山崎加代子さんの教え子でもあるそうだ。

1998年には日本に帰化しているという彼女だが
セルビア語、ロシア語、日本語を自在にあやつり
時にセルビア語で、時に日本語で執筆したものを
自ら他言語に翻訳もするのだという。

紋切り型とですます調が奇妙に入り乱れて
違和感というよりエキゾチックな雰囲気を醸しだしている。
もともと神を信じていない無神論と
信仰に重きを置かれている社会の中で論じられる無神論とでは
大きくことなるものなのかもと興味深い。

こんな日本人いるかしら?
いないような気がするけれど……と
読みながらなんの根拠もなく思う自分に気づいて思わず苦笑い。
日本人だっていろいろなはずなのに。
ステレオタイプにとらえがちなのは
案外、外からの目線だけではないのかもしれない。

日本人、ロシア人、セルビア人、
人種も国籍も違う人たちが次々と登場する
ある意味グローバルな物語なのだが
ナレーション役を月がつとめているにもかかわらず
設定自体を突飛に感じることはなく
むしろ極めてオーソドックスな安定した筆運び。
総じて読みやすく後味も悪くない。
物語からにじみ出てくる作家の人生観、世界観といったものが興味深かった。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. たけぞう2017-02-15 22:13

    図書館本の待機リストに入れてあります。未知谷ですしね。
    さすがかもめ通信さん、先を越されました。ゆっくりついていきます。

  2. かもめ通信2017-02-16 06:43

    おっ!たけぞうさんもチェック済でしたか!
    実は私の場合、この本、しばらく前に衝動買いしてそのあと、
    いやこの本を読む前にやっぱり山崎佳代子さんでしょ?と
    山崎さん関連の積読本+図書館本を先に読んだのですw

    この作家さんの作品は山崎さんのそれとは
    テーマをふくめだいぶ違いましたが
    どちらも“詩人”であることだけは確かなようです。

  3. No Image

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