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そうきゅうどう
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『枕草子』、『方丈記』、『徒然草』が収録されているが、その現代語訳には、それぞれの訳者の世界観、人生観が色濃く現れていて、「翻訳」というものを考える上で非常に興味深い。
池澤夏樹個人編集による日本文学全集第7巻には、現代語訳された『枕草子』、『方丈記』、『徒然草』が収録されている。この3作の現代語訳には、それぞれの訳者の世界観、人生観が色濃く現れていて、「翻訳」というものを考える上で非常に興味深い。

まず酒井順子による『枕草子』の現代語訳についてだが、実は私は、この酒井訳『枕草子』をほとんど読んでいない。
清少納言による『枕草子』の成立にはさまざまな説があるが、現在主流になっているのは清少納言が没落した中宮・定子の慰みになるようにと、定子とそのサロンが最も輝いていた頃のことを綴ったものだとする説で、大河ドラマ『光る君へ』でもその説が採用されている。
それに対して酒井は、清少納言が宮中に仕える女房衆など不特定多数の人たちに向けて、定子のサロンでの体験などを自らの感性に基づいて執筆したもの、という解釈で『枕草子』を現代語訳したのではないか、と私には感じられた(実際、この酒井訳『枕草子』は、このまま雑誌にコラムとして連載していても全く不自然ではない)。そのため、読んでいるとどんどん違和感が強くなってしまい、途中で読み進めることができなくなってしまった。これは訳文の善し悪しの問題ではなく(例えば冒頭の「春はあけぼの」の酒井の訳文などは、息を飲むほど見事なものだ)、作品成立に関する歴史的解釈の問題である。

次に、Amazonレビューなどで非難囂々の高橋源一郎による『方丈記』の現代語訳について。
高橋は「訳者あとがき」で、『方丈記』を現代語訳するに当たって、古文を逐語的に現代文に置き換えるのではなく、作者の鴨長明が、現代に甦ったなら、どう書いただろう。『方丈記』を、できたての新作として読めるようにしてみること。という方針を立てたと述べている。その結果、できあがったのがあの破格な現代語訳『方丈記』であり、それを受け入れられない人たちが騒いでいる、ということなのだ。
だが読んでみると、最初は多少戸惑うものの、高橋の訳文は鴨長明の原文ではなく心境を、忠実に現代の文章として書き表そうとしたことがよく分かる。そういう意味で、これは紛れもなく現代語訳された『方丈記』であり、同時に高橋は、これを通じて「現代語訳とは何か」まで問うているのである。

それと対照的なのが内田樹による『徒然草』の現代語訳である。
内田は「訳者あとがき」で今回の仕事で私に求められているのは、テクストの身体を際立たせることだと(勝手に)思い定めて、訳を始めた。と述べているが、兼好法師の原文を可能な限り生かした形で『徒然草』を現代語訳したのだと思われる。多少言葉を補った部分はあるのかもしれないが、訳注もほぼなく、分かりにくいと言えば分かりにくい。だが、それは昔の人が現代とは違う世界に身を置いて書いたのだから当然、とも言え、それを内包したものが内田にとっての現代語訳なのだろう。
ところで『徒然草』には、内田の言うなんだかよくわからない話というのが多数出てくる。恐らく兼好がどこかで伝え聞いた話などを書き起こしたものなのだろうが、これがなかなか面白い。中でも私は第四〇段がお気に入りで、何度読んでも笑ってしまう。
因幡国(いなばのくに)のなんとかの入道という人に娘がいて、美女の誉れが高かった。いろいろな男たちが求婚したが、この娘は栗しか食べず、米の類いを口にしなかったので、「こんな異様なものを人の嫁にはできぬ」と言って親が許さなかった。

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そうきゅうどう
そうきゅうどう さん本が好き!1級(書評数:594 件)

「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp

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