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Wings to fly
レビュアー:
静かに降り注ぐ雨が、ひび割れた地面を修復するように。 #カドフェス
学校に行っても、街に出ても、いつもそこには大量の人間がいる。高校一年生の秋月君は、最近それがどうにもやりきれないほどつらい。だから雨の日の午前中は学校をさぼる。新宿の大きな公園の小さな東屋で、静かな雨の音と誰もいない広い空間を独り占めして眠ったりする。その東屋で彼は、雨の日にだけやってくる年上の女性と出会う。

偶然の縁に結ばれたふたりの、ほんの半年ほどの月日を描いた作品である。重たい憂鬱を抱えているらしい20代後半の社会人と、靴作りに惹かれ孤独を愛する15歳男子の交流は、年下の彼に年上の彼女が救われてゆく展開となる。

人生経験の差は彼らの関係にあまり影響を及ぼさない。つまり、「頭が良くて人の気持ちがわかるからこそ辛い思いをしている、センシティブで弱い存在」が、「子供か大人かではなく、人の心に敏感でしかも強い耐久力をもった存在」に癒やされ、立ち止まり動けなくなったところから進んで行くまでの物語なのだ。彼らはただ、雨の日に同じ東屋に坐って時々会話をする。

言葉を交わし、雨の音と曇り空を分かち合いながら生まれたものは、恋や憧れの甘酸っぱい匂いよりも、湿気をはらんだ樹木から吹いてくる風の香りがする。それぞれの言葉は特別なものとして、静かに降り注ぐ優しい滴のように互いの心に沁みこんでゆく。心の乾いてひび割れた場所が潤ってゆく。

挿入されたふたつの和歌はふたりの関係を象徴するようで、タイトルも素敵だ。強い日差しの下では生まれ得ない物語だと、しみじみ思う。うっとうしい梅雨が、なんとまあ美しい季節なのだろうと思ってしまう。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. morimori2019-07-21 20:37

    Wings to fly さん、お久しぶり?です。
    爽やかなレビューで、鬱陶しいと感じる雨も木々の緑をより際立たせるようで素敵だなあと思いました。ザ青春ですね。

  2. Wings to fly2019-07-21 21:42

    morimoriさん
    ご無沙汰いたしました^ ^ 半年以上にわたり本をただ読み散らしており、書評ってどんな風に書くんだったかしら状態になりました。優しいコメントに感謝です(TT) ありがとうございます!
    長雨にうんざりしていましたが、梅雨ならではの風情も良いものだと思いましたよ(^^)
    またよろしくお願いします。

  3. 祐太郎2019-08-01 00:13

    今、「言の葉の庭」を観終わりました。
    「天気の子」はこの本の直系なんだなと強く思いました。いい映画ですね。小説も読みたくなりました。

  4. Wings to fly2019-08-01 21:56

    祐太郎さん
    映画は雨の情景が美しかったですね。小説は人物像に深みがあり作品の理解が深まる感じで、こちらもたいへん良かったです。お読みになったら感想教えてくださいね!

  5. No Image

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