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紅い芥子粒
レビュアー:
ロバート・キャパの有名な写真『崩れ落ちる兵士』。謎多いその写真の真実に近づこうとする執念のノンフィクション。
最初のページのまん中に、『ここに一枚の写真がある。』という一行。

次のページに『崩れ落ちる兵士』とキャプションのつけられた写真。

読者の目は、しばしその写真に釘づけにされる。
荒涼とした風景の中で、ひとりの兵士が、銃を片手に両手を大きく広げ、斜面で両足を踏んばって、倒れないように必死でバランスをとっているように見える。

その次のページに写真の説明。
スペイン戦争(1936-1939)時に、共和国軍兵士が反乱軍兵士に撃たれて倒れるところを撮ったもの。
スペイン戦争を象徴する写真とされてきた。
撮影者は、ロバート・キャパ。23歳のときに撮影。
彼は、この写真でいちやく有名になった。

謎の多い写真だった。
写っている兵士が、ポーズをとっているようにも見えるからだ。
撃たれたというのに流血もない。

兵士が撃たれた瞬間? 実は、”やらせ”じゃないのか。この写真は”怪しい”。

キャパ本人は、その写真について何も語ることはなく、1954年5月25日、インドシナ戦争の戦地ベトナムで地雷を踏んで死んだ。40歳だった。

著者は、『崩れ落ちる兵士』の真実に近づきたいと考える。
何度も現地に足を運んでの、何年にもおよぶ検証の結果、ある結論に到達する。
執念のノンフィクションである。

キャパは、40年の短い生涯で、五つの戦場を渡り歩いたという。
彼を、戦場へと駆り立てたものはなんだったのだろう。
使命感? 好奇心? 表現者としての情熱?
戦場で撮った写真を発表し、彼は、富と名声を得る。
それは、他人の血で得た富と名声だ。

彼の心にやましさはなかっただろうか。あったとしたら、そのやましさが、彼を次の戦場へと駆り立てていたのではないだろうか。戦場は、常に死と隣り合わせだから。
無意識のうちに自分の死を望んでいたのかもしれない。

著者の沢木さんは、キャパに自分と同じ「視るだけの者」としての哀しみを感じると書く。自分とキャパは、同類だともいう。

ジャーナリストは、取材対象の中に深く入り込み、撮って書いて、発表する。
特攻隊で生き残った人や、原爆で生き延びた人が、何十年も沈黙し続け、90歳を過ぎて重い口を開くのと対照的だ。

ジャーナリストが撮るもの、書くものは、限りなく真実に近づくことはできても、真実ではない。「視るだけの者」の哀しみとは、望んでも望んでも真実に到達できない者の哀しみかもしれない。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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