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たけぞう
レビュアー:
まさか名探偵に会えるとは。
全七編の短編集です。
2009年から2016年まで、様々な文芸誌で掲載された小品を集めています。
書下ろしは一篇だけ。三十頁前後の作品が多いため謎解き重視ですが、
じんわりと温かさが伝わってきます。

最後の一篇、五十六頁の作品で名探偵巫弓彦が登場します。
初出は冬のオペラです。北村薫さんを読み始めた最初の二冊のうちの一冊で、
主人公の姫宮あゆみともどもずっと会いたかった人です。
今回もやっぱり名探偵でした。

ところが北村作品ではとても珍しいのですが、付記の形で自作解説がある
のです。北村薫さんは本格推理の書き手を標榜するだけに、謎解きのトリッ
クを作中に入れて、読後にしっくりくることへ強いこだわりを持っています。
説明しなければならない犯人当ては、無粋だとの考えがあるのでしょう。
しかしNHKの犯人当ての番組「探偵Xからの挑戦状」の原作を書くことに
なったため、作者の意図を書く必要が生じたからとの特別対応です。
この付記もちょっとしたもので、読みごたえがあります。

わたしは付記の考え方にとても賛同しています。
同じように本格推理を目指していても、なぜ北村薫さんを純然たる推理作家と
思っていないか、なぜ本格派の中に合わない人がいるのかがよく分かりました。

推理小説を読むときに、誰が犯人なのか、こう来たかなどと頭脳ゲームのように
楽しむ方がいます。一方で、北村さんはこんなことを言っています。
目覚ましい論理展開とその先にある結論によって驚かせてほしい!
それがわたしの願いでした。


犯人は誰かを考えないようにして、常人の持たないひらめきを感じ、別世界を
見てしまう特別な目の持ち主にときめくとのこと。
手品をどうやって楽しむかに似ている気がします。

淡い恋を扱った短編も入っていて、いつもの通り楽しめる作風のものもあります。
野心作は「解釈」というSF。宇宙人が地球の小説を読んで誤読するお話です。
有名どころから三冊ですが、そのうちの二冊は漱石と太宰です。
ほほえましい笑いに包まれる一篇です。

なにはともあれ、巫弓彦にお会いになりたい方は、必読と言える一冊でしょう。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1471 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

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