レビュアー:
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時の流れに刻まれた、かけがえのない多くの記憶は、その場所に祝福の気配を漂わせる。
☆上下巻合わせた書評です。
皇居のすぐ向かいにある“東京會舘”は、100年近く前に創業した宴会場である。特別の記念日にお洒落をして出かけたい本格フレンチや懐石料理のレストラン、喫茶室とバーがあり、お土産用の素敵な洋菓子も売っている。結婚式やパーティーなどのイベントの他、一流シェフが教えるクッキングスクール、芥川賞・直木賞の受賞会見や贈呈式もここで行われていた。現在は二度目の改築工事で休業中、来年29階建てのビルに生まれ変わるそうだが、大正時代からの長い時間の中には、たくさんの人々の「忘れがたい思い出」が刻まれている。
上巻は人々の社交の場としてオープンした旧館を、下巻は改築後の新館を舞台に、東京會舘でのエピソードを連作短編として描いた作品だ。戦時下の結婚式、GHQに接収されていた時のバー、お土産用の洋菓子誕生秘話、越路吹雪とディナーショー、東北大震災の日、3年間の休業前の最後の営業日。お客とスタッフ双方の気持ちがしみじみと伝わってきて、涙がこぼれそうになる。こんなに感動しちゃう理由はきっと、”サービス”とか”おもてなし”の本質は優しい心遣いだと気づかせてくれて、それを受けた人の「嬉しかったよ、忘れないよ。」という感謝の心もまた美しいなあと感じるからだ。東京會舘は、かけがえのない多くの記憶に祝福された場所だと、そんな風にも思えてくる。
作者の東京會舘への強い想いを感じた。何かご縁をお持ちなのだろうとインタビュー記事を探したら、辻村さんは結婚式を東京會舘で挙げておられた。その時「直木賞の時戻ってきますね。」と冗談のように言ったら、3年後に直木賞を受賞され、会見に向かった東京會舘で「お帰りなさいませ」と迎えられたそうだ。そのエピソードも、その他に取材を通じて知った本当の出来事がたくさん、本作の土台となっているようだ。
各話の登場人物が様々なところでつながり、東京會舘の長い歴史をひとつの大きな物語として成立させている。迫真の、そして心温まる人間ドラマである。
皇居のすぐ向かいにある“東京會舘”は、100年近く前に創業した宴会場である。特別の記念日にお洒落をして出かけたい本格フレンチや懐石料理のレストラン、喫茶室とバーがあり、お土産用の素敵な洋菓子も売っている。結婚式やパーティーなどのイベントの他、一流シェフが教えるクッキングスクール、芥川賞・直木賞の受賞会見や贈呈式もここで行われていた。現在は二度目の改築工事で休業中、来年29階建てのビルに生まれ変わるそうだが、大正時代からの長い時間の中には、たくさんの人々の「忘れがたい思い出」が刻まれている。
上巻は人々の社交の場としてオープンした旧館を、下巻は改築後の新館を舞台に、東京會舘でのエピソードを連作短編として描いた作品だ。戦時下の結婚式、GHQに接収されていた時のバー、お土産用の洋菓子誕生秘話、越路吹雪とディナーショー、東北大震災の日、3年間の休業前の最後の営業日。お客とスタッフ双方の気持ちがしみじみと伝わってきて、涙がこぼれそうになる。こんなに感動しちゃう理由はきっと、”サービス”とか”おもてなし”の本質は優しい心遣いだと気づかせてくれて、それを受けた人の「嬉しかったよ、忘れないよ。」という感謝の心もまた美しいなあと感じるからだ。東京會舘は、かけがえのない多くの記憶に祝福された場所だと、そんな風にも思えてくる。
作者の東京會舘への強い想いを感じた。何かご縁をお持ちなのだろうとインタビュー記事を探したら、辻村さんは結婚式を東京會舘で挙げておられた。その時「直木賞の時戻ってきますね。」と冗談のように言ったら、3年後に直木賞を受賞され、会見に向かった東京會舘で「お帰りなさいませ」と迎えられたそうだ。そのエピソードも、その他に取材を通じて知った本当の出来事がたくさん、本作の土台となっているようだ。
各話の登場人物が様々なところでつながり、東京會舘の長い歴史をひとつの大きな物語として成立させている。迫真の、そして心温まる人間ドラマである。
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
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- 出版社:毎日新聞出版
- ページ数:285
- ISBN:9784620108216
- 発売日:2016年07月30日
- 価格:1620円
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