ぽんきちさん
レビュアー:
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より開かれた、より建設的な議論の場を作るために
インターネットというと、あまり利用しない人に取っては、「便利かもしれないけど怖い」場所というイメージがあるように思う。いや、ヘビーユーザーにとっても「怖い」場所であることには変わりはない。広い世界への扉が開くということは、自分にとって好ましいことばかりではなく、厄介なことや煩わしいことも招き寄せるということであるからだ。
ネットの中でもTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の「匿名性」・「双方向性」・「即時性」・「つながり」は、よい方向に働けば、実生活では出会うこともなかったような人との交流を産み、刺激となる反面、自分の発言が思わぬ受け取られ方をしたり、一部分だけが取り上げられ一人歩きをしたりする。
人間関係のごたごたはリアルな社会でも付きものだが、ネットに関しては匿名性や即時性といった特徴がさらにそのストレスを大きくする面もある。
SNSのトラブルの大きなものとして、「炎上」がある。企業や個人の発信に対して、SNS上に批判的なコメントが殺到するというものである。
本書は、この炎上がテーマである。まず、炎上事象について、定量的な分析を試み、その実像を探る。次にはこうして浮かび上がった実像から、炎上を防ぐためには、さらにはよりよいネットワーク・システムとはどういうものかを考えていく。
本書では主に、Twitterでの炎上例を取り上げている。FacebookやLINEに比較して、開いた場であり、コメントが何件ついたか等の数値としてのデータが取りやすいためである。
発信者が誰であったか(著名人・企業・一般人)、何をしたか(反社会的行為の告白・批判や暴言・自作自演等)、炎上後の対応(反論・削除・無視・謝罪)に注目して分類し、具体的な事例の経過を検討していく。
データとしてのもう1つの柱は、アンケート調査である。約2万人の人に対して、年齢・性別・年収などの基本データと、インターネットとの関わり方、炎上を知っているか、また参加したことがあるか等のデータを集めて統計的に分析する。
一般的に、炎上の背後にいるのは、ネットのヘビーユーザーであり、時間を持て余し、自宅に引きこもって、インターネットで誹謗中傷を繰り返すという見方が多かった。が、この分析から、若い世代の年収が高い子持ちの男性が、炎上に参加する傾向が高いことが浮かび上がってきた。
またひとたび炎上が起こると、まるで世間の大多数が批判に殺到しているように見えがちだが、実際に批判コメントを寄せるのは、ユーザーのうちのごくわずかな割合でしかないことも見えてきた。
各論には異論も出そうだが、まず何より、漠然と「怖い」イメージがある「炎上」を分析することが可能であることを示した点が本書の意義だろう。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というが、実態がわからないと実物以上に怖く感じることはままある。わからないものに対しては、対処のしようもない。その結果、何だか怖そうだから近づかないでおこう、ということになりがちである。
炎上とはこういう分類ができ、炎上に関わる傾向が強い人はこのような人で、しかも実際に炎上に参加する人は思いの外少ないといった特徴がわかってくれば、手の打ちようもありそうに思えてくる。
また、本書のもう1つの美点は、既存のネットワーク・システムに固執することなく、新たなネットワークの構築が可能ではないかと提案していることだろう。インターネットはまだまだ若いツールであり、元々は研究者同士の交流・議論のために発展してきた背景を持つ。さまざまなバックボーンを持つユーザーが、コミュニケーションの道具として使うために、十分に試行錯誤が尽くされているとは言えないのだ。
著者らは、炎上しにくくSNS疲れのないSNSの例として、サロン形式のシステムを提案する。書き込みが出来るのは主宰者の友人の友人までなど、限られた範囲としつつ、閲覧は不特定多数も可能で、一定期間以上、アクセスがないユーザーは、自動的にメンバーから外されるというものだ。それ自体、唯一無二の解ではない(と著者ら自身も言っている)が、インターネットの長所を活かしつつ、どうすればよりトラブルの少ない、より建設的な議論を生む場にできるのかを考えさせる提言であるように思う。
インターネットは強力なツールである。
炎上を初めとするトラブルで、多くの人が萎縮し、発信するのは極端な意見を持つ人のみとなるのは望ましくないと著者らは言う。
インターネットがより成熟したツールになることは可能なのか、考えさせられつつ、興味深く読んだ。
ネットの中でもTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)の「匿名性」・「双方向性」・「即時性」・「つながり」は、よい方向に働けば、実生活では出会うこともなかったような人との交流を産み、刺激となる反面、自分の発言が思わぬ受け取られ方をしたり、一部分だけが取り上げられ一人歩きをしたりする。
人間関係のごたごたはリアルな社会でも付きものだが、ネットに関しては匿名性や即時性といった特徴がさらにそのストレスを大きくする面もある。
SNSのトラブルの大きなものとして、「炎上」がある。企業や個人の発信に対して、SNS上に批判的なコメントが殺到するというものである。
本書は、この炎上がテーマである。まず、炎上事象について、定量的な分析を試み、その実像を探る。次にはこうして浮かび上がった実像から、炎上を防ぐためには、さらにはよりよいネットワーク・システムとはどういうものかを考えていく。
本書では主に、Twitterでの炎上例を取り上げている。FacebookやLINEに比較して、開いた場であり、コメントが何件ついたか等の数値としてのデータが取りやすいためである。
発信者が誰であったか(著名人・企業・一般人)、何をしたか(反社会的行為の告白・批判や暴言・自作自演等)、炎上後の対応(反論・削除・無視・謝罪)に注目して分類し、具体的な事例の経過を検討していく。
データとしてのもう1つの柱は、アンケート調査である。約2万人の人に対して、年齢・性別・年収などの基本データと、インターネットとの関わり方、炎上を知っているか、また参加したことがあるか等のデータを集めて統計的に分析する。
一般的に、炎上の背後にいるのは、ネットのヘビーユーザーであり、時間を持て余し、自宅に引きこもって、インターネットで誹謗中傷を繰り返すという見方が多かった。が、この分析から、若い世代の年収が高い子持ちの男性が、炎上に参加する傾向が高いことが浮かび上がってきた。
またひとたび炎上が起こると、まるで世間の大多数が批判に殺到しているように見えがちだが、実際に批判コメントを寄せるのは、ユーザーのうちのごくわずかな割合でしかないことも見えてきた。
各論には異論も出そうだが、まず何より、漠然と「怖い」イメージがある「炎上」を分析することが可能であることを示した点が本書の意義だろう。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というが、実態がわからないと実物以上に怖く感じることはままある。わからないものに対しては、対処のしようもない。その結果、何だか怖そうだから近づかないでおこう、ということになりがちである。
炎上とはこういう分類ができ、炎上に関わる傾向が強い人はこのような人で、しかも実際に炎上に参加する人は思いの外少ないといった特徴がわかってくれば、手の打ちようもありそうに思えてくる。
また、本書のもう1つの美点は、既存のネットワーク・システムに固執することなく、新たなネットワークの構築が可能ではないかと提案していることだろう。インターネットはまだまだ若いツールであり、元々は研究者同士の交流・議論のために発展してきた背景を持つ。さまざまなバックボーンを持つユーザーが、コミュニケーションの道具として使うために、十分に試行錯誤が尽くされているとは言えないのだ。
著者らは、炎上しにくくSNS疲れのないSNSの例として、サロン形式のシステムを提案する。書き込みが出来るのは主宰者の友人の友人までなど、限られた範囲としつつ、閲覧は不特定多数も可能で、一定期間以上、アクセスがないユーザーは、自動的にメンバーから外されるというものだ。それ自体、唯一無二の解ではない(と著者ら自身も言っている)が、インターネットの長所を活かしつつ、どうすればよりトラブルの少ない、より建設的な議論を生む場にできるのかを考えさせる提言であるように思う。
インターネットは強力なツールである。
炎上を初めとするトラブルで、多くの人が萎縮し、発信するのは極端な意見を持つ人のみとなるのは望ましくないと著者らは言う。
インターネットがより成熟したツールになることは可能なのか、考えさせられつつ、興味深く読んだ。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:勁草書房
- ページ数:242
- ISBN:9784326504220
- 発売日:2016年04月22日
- 価格:2376円
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