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Wings to fly
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新しい時代の帝王として生きた明治天皇の苦悩、帝都の人々を神宮造営へと突き動かした亡き帝への思いを、ひとりの記者の視線から描く。
立憲君主国家の帝として、史上初めて東京に住まわれた明治天皇の陵墓は京都にある。それは、生まれ育った京都に帰りたいという天皇の御遺志だった。維新後の国民の精神的支柱であり続けた明治天皇を失い、帝都は求心力を失うのではないかと、東京の要人たちは焦りを覚えた。

東京の原宿界隈と聞けば、ファッショナブルな若者の街、賑やかな都会というイメージが湧く。しかし、明治の終わりごろは帝都の片田舎で、草ぼうぼうの寂れた荒地だった。明治天皇の没後、御霊を祀る神社が作られることになり、候補の中から代々木御料地が選ばれる。神社を作るなら鎮守の森も必要だということで、その荒地に木を植えて森を作ることになった。ところが、大問題が発生する。鎮守の森は針葉樹を植えないと荘厳な雰囲気が出ないのに、東京の気候と土壌は針葉樹の生育に適さないのである。

本書は明治神宮造営をテーマに据えた作品であり、その中心には150年計画で人工的に作られた「神宮の森」が厳かに鎮座している・・・と思ったら、あてが外れた。以下の三つの事柄が描かれているが、残念なことにどれもが薄味なのである。

1.限りなく天然に近い人口の森を作り上げようとする、帝大農科の研究者たちの熱意と苦闘。
2.帝都の人々を明治神宮造営に向かわせた(亡き天皇への)熱い思いの理由。
3.神宮の森に関わる取材を経て記者魂を養ってゆく、弱小新聞社の記者。(当時のマスコミ事情)

作者はこれらを通じて、慣れ親しんだ京都御所を離れて東京に住み、過去の模範もないままに「新しい時代の帝王」として君臨し、国民のために良き帝であろうとした明治天皇の人間的苦悩に迫ろうとしたのではないか。その意図はよくわかるのだが、あと一振りの塩が足りない感じだ。どこかに力点が欲しかった。神宮の森・150年計画の詳しい内容や、どんな困難を乗り越えてあの美しい森が出来上がったのかを、もっと長いスパンで計画者と現場の職人を中心に掘り下げたなら、読みごたえも違っただろう。すごく惜しいと思う。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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