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この物語に、なぜこういう挿絵を選んだのでしょう。
岩波書店が、瀬田貞二訳で『ナルニア国物語』を初めて日本に紹介したのは50年前(1966)のこと。本書の訳者土屋京子さんの言葉を借りれば「いま、息をしている言葉で」読める、また「児童文学だけれども大人でも楽しめる」ナルニアを目指しての新訳が登場した。
光文社古典新訳文庫のシリーズは、全7巻がストーリーの時系列にそって並べられるそうだ。1巻目『魔術師のおい』は、ナルニア創生の物語である。
ロンドンに住むディゴリー少年と遊び友だちの少女ポリーは、ディゴリーの伯父のずる賢い魔術師に騙され、魔法の指輪の実験台として別世界に送り込まれた。滅びゆく王国で邪悪な魔女を目覚めさせてしまったディゴリーは、魔女を別世界に送り返そうと再び指輪を使う。ポリーと魔女を連れて次に訪れた世界では、創造主アスランが、木の精や川の神々、もの言うけものたちの住むナルニア国を誕生させようとしていた。
新訳の良さは話し言葉だと思う。もの言うけものに選ばれた、元ロンドンの馬車馬ストロベリー(岩波版ではイチゴ)の最初の言葉を並べてみよう。
「でも、おねがいです。まだあまりよくわからないので。」(岩波版)
「あの、すいません、まだあまりよくわかんないんだけど。」(本書)
また、新旧の大きな違いは「ですます調」からの脱却である。
新訳は、地の文はとてもシンプルだが、現代的な会話にくだけたユーモアを加えるという工夫がされている。
訳によって物語の風味が損なわれたとは思わない。
問題は挿絵である。大人も楽しめるナルニア物語を目指したのなら、なぜこういうキティちゃん的な子どもっぽい挿絵にしたのだろう。新訳で再読しようと思う”大人”には、初めてこのお話に出会った時の素晴らしい挿絵に「刷り込み」が生まれていることを、もっと考慮して欲しかった。著作権の問題で使えないというのなら、挿絵は入れないという選択もあったと思う。
読了後に痛感したのは、ナルニアの豊かな物語性や、読者の心に育む美しい夢に、画家ポーリン・ベインズの芸術的な絵が果たした役割の大きさだった。
光文社古典新訳文庫のシリーズは、全7巻がストーリーの時系列にそって並べられるそうだ。1巻目『魔術師のおい』は、ナルニア創生の物語である。
ロンドンに住むディゴリー少年と遊び友だちの少女ポリーは、ディゴリーの伯父のずる賢い魔術師に騙され、魔法の指輪の実験台として別世界に送り込まれた。滅びゆく王国で邪悪な魔女を目覚めさせてしまったディゴリーは、魔女を別世界に送り返そうと再び指輪を使う。ポリーと魔女を連れて次に訪れた世界では、創造主アスランが、木の精や川の神々、もの言うけものたちの住むナルニア国を誕生させようとしていた。
新訳の良さは話し言葉だと思う。もの言うけものに選ばれた、元ロンドンの馬車馬ストロベリー(岩波版ではイチゴ)の最初の言葉を並べてみよう。
「でも、おねがいです。まだあまりよくわからないので。」(岩波版)
「あの、すいません、まだあまりよくわかんないんだけど。」(本書)
また、新旧の大きな違いは「ですます調」からの脱却である。
「この物語は、ずっと昔、みなさんのおじいさんがまだ子どもだったころのお話です。そしてここには、そもそもわたしたちのこの世界とナルニア国とのゆききがどんなふうにして始まったかということが書いてありますから、たいへん大事なお話であります。(岩波版)
これは、はるか昔、読者諸君のおじいさんが少年だった時代に起こった、とても重要な物語である──というのは、わたしたちの世界とナルニア国との行き来がどのようにして始まったかを伝える物語だからだ。(本書)
新訳は、地の文はとてもシンプルだが、現代的な会話にくだけたユーモアを加えるという工夫がされている。
訳によって物語の風味が損なわれたとは思わない。
問題は挿絵である。大人も楽しめるナルニア物語を目指したのなら、なぜこういうキティちゃん的な子どもっぽい挿絵にしたのだろう。新訳で再読しようと思う”大人”には、初めてこのお話に出会った時の素晴らしい挿絵に「刷り込み」が生まれていることを、もっと考慮して欲しかった。著作権の問題で使えないというのなら、挿絵は入れないという選択もあったと思う。
読了後に痛感したのは、ナルニアの豊かな物語性や、読者の心に育む美しい夢に、画家ポーリン・ベインズの芸術的な絵が果たした役割の大きさだった。
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この書評へのコメント
- かもめ通信2016-09-21 05:45
私が気になるのは、出版順。
確かに時代順ではあるんだけれど、うろ覚えだけれど「魔術師のおい」って、登場人物達はすでに“ナルニア”を知っているって前提じゃ無かったっけ??クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Wings to fly2016-09-21 06:17
薄荷さん
>ですます調で語られるお話の特別感
これ、素敵な感想だなぁと思います。私にとってもナルニアは特別なお話で、読み終わった後にすぐ、ベインズさんの挿絵を眺めて、「ナルニアはやっぱここだよ」と思いました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Wings to fly2016-09-21 06:21
たけぞうさん
>もったいないことをした感
あー、わかってくださってありがとうございます(笑)訳は良かっただけに、ホントにねえ…
もしサンリオが「ナルニア国グッズ」を作るなら、キャラはきっとこんな感じだろうなぁと。だから、絵は可愛いのです。可愛いところが、私には合わなかったです^ ^クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Wings to fly2016-09-21 06:28
かもめ通信さん
登場人物たちは偶然無の世界に紛れ込み、暗闇にアスランの歌声が響いてまず星が生まれました。だから、まだ誰も行ったことなかったのよ(^ ^) あの場面は実に美しいですね。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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