レビュアー:
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#棚マル フェアに推薦された一冊。両氏がくり出す、あの作品この作品からピックアップした食の品々。ページを捲り、読んでは食べて、食べては読んでを繰り返すと……もうお腹一杯。体重増加にはご注意を(笑)
BookPort大崎ブライトタワー店さんにて開催中の棚マルフェア! 残すところ5日となりました。お店に出向くことも出来ず、これまでレビュアーの皆さんが挙げる書評を、ただただ眺めるばかりでしたが、フェアのラストスパートを後押しするためにも、レビューをアップすることにします(←遅いっw) 読んだ本は薄荷さん が推薦する一冊です。
ふたりの名手が案内人となり、古今の小説やエッセイに登場する品々を採りあげ、リレー形式で綴っていく、食をテーマに編まれたエッセイ集。紹介される本を頼りに、読書案内として読むことも可能だ。中程と巻末には、雑誌『dancuy』の連載百回を記念した対談も収録されており、連載時の裏事情もうかがい知れる、まことにオイシイ一冊。ただし、テーマが食であるだけに、すきっ腹や夜更けの読書の際には、ご注意を!
ここで紹介される一品は、おそらく実際の作中ではわずか一コマ程度しか顔を見せず、よっぽど注意深く読まないかぎり、読み手の印象に留めることは難しいのかもしれない。自らのこだわりを開陳し、食をモチーフにした著作ならまだしも、作品の筋とは一見結びつきそうにない著作から選り抜く、両氏の仕事ぶりには頭のさがる思いがする。これだけのものをよく集めたものだな、と感嘆せずにはいられなかった。
掲載された作品を見渡すと、まったく読んだことのない著作から、手もとにはあるが未だ本を開いてない作品も多くあり、どこか後ろめたい気持ちにさせられる。美味しいものを食べたいという欲求の一方で、「体に入っちゃえば、何でも一緒でしょ」とかなり雑駁な姿勢も持ち合わせてる私だから、数少ない既読の作品にも、『坊ちゃん』に登場する清が拵えた蕎麦湯、『外套』の主人公が夕食にすするシチューなど、指摘されて初めて気づかされた品も多い。以下、私が気になったものを幾つかピックアップしてみる。
・角田セレクト
武田百合子『富士日記』から。武田家の「パン ハンバーグステーキ スープ」というある朝のメニュー。ハンバーグステーキとは驚いた。パンとあるからハンバーガーのような形で食べたのかな、と思う。同日の夕食に「おじや(卵入り)、鮭と玉ねぎ油酢漬、里芋味噌汁、茄子しぎ焼き。」とあり、こちらの方が朝食のメニューに適ってるような気もする。おそらく一日のバランスを見て調整したのだろう。こんな箇所に人間の可笑しみを感じるのは私だけだろうか。
平安寿子『きみよ、幸せに』(「恋はさじ加減」所収)から。「ポテトサラダは好き?」という美果の質問に、年下の水道屋フミオが「ソースをかけて食べるのが好き」と答えた、ソースがけポテトサラダ。大賛成!! 私も大好きだ。頻繁に口にしていると、味に変化を付けたくなるもので、「さて、何があうか……」と頭をめぐらせ思いついたのが、ソースがけポテサラだった。これ、イケますよ!
・堀江セレクト
ソートン・ワイルダー『わが町』から。ドラックストアに立ち寄ったジョージとエミリーが、別々のものを注文しようとしたため、ひとまとめにジョージが注文した、ストロベリー・クリームソーダ(クリームソーダとストロベリーソーダをあわせたもの)。ストロベリー・クリームソーダ! 蠱惑的なこの響き。真っ赤に染め抜いた液体の上部に、白いアイスクリームが島のように浸っているところを想像すると、ああ、飲みたい、いますぐ、飲みたいではないか!
ローレンス・ブロック『殺し屋』から。殺し屋ケラーが「ふたつのドーナツに、コーヒー一杯」で済ませた、ある日の朝食。世の善人はおろか、殺し屋だってきちんと朝食をとるのだ、と妙に感心する。暗殺を使命とする殺し屋が、朝食にふたつのドーナツを黙々と口に運んでいるシーンは、その冷たく暗いイメージに似合わず、どこかチャーミングで微笑ましい。
というように、まことに愉快な一冊なのだが、油断してはならない。なかには作家の本質をズバリ突いたものや、間接的に自身の小説観に触れたようなものまで、とりあげる本によって、両氏がさまざまな表情を見せてくれるのも魅力のひとつ。作品に付随する一コマで、こんな贅沢な一冊が出来あがってしまうのだ。「読まなければ食べられない」と角田さんが述べる通り、本書のメニューを味わった後は、本への旅があなたを待ち受けている。ますます積読山が高くなる、ああ、なんて罪深い一冊なのだ。
ふたりの名手が案内人となり、古今の小説やエッセイに登場する品々を採りあげ、リレー形式で綴っていく、食をテーマに編まれたエッセイ集。紹介される本を頼りに、読書案内として読むことも可能だ。中程と巻末には、雑誌『dancuy』の連載百回を記念した対談も収録されており、連載時の裏事情もうかがい知れる、まことにオイシイ一冊。ただし、テーマが食であるだけに、すきっ腹や夜更けの読書の際には、ご注意を!
ここで紹介される一品は、おそらく実際の作中ではわずか一コマ程度しか顔を見せず、よっぽど注意深く読まないかぎり、読み手の印象に留めることは難しいのかもしれない。自らのこだわりを開陳し、食をモチーフにした著作ならまだしも、作品の筋とは一見結びつきそうにない著作から選り抜く、両氏の仕事ぶりには頭のさがる思いがする。これだけのものをよく集めたものだな、と感嘆せずにはいられなかった。
掲載された作品を見渡すと、まったく読んだことのない著作から、手もとにはあるが未だ本を開いてない作品も多くあり、どこか後ろめたい気持ちにさせられる。美味しいものを食べたいという欲求の一方で、「体に入っちゃえば、何でも一緒でしょ」とかなり雑駁な姿勢も持ち合わせてる私だから、数少ない既読の作品にも、『坊ちゃん』に登場する清が拵えた蕎麦湯、『外套』の主人公が夕食にすするシチューなど、指摘されて初めて気づかされた品も多い。以下、私が気になったものを幾つかピックアップしてみる。
・角田セレクト
武田百合子『富士日記』から。武田家の「パン ハンバーグステーキ スープ」というある朝のメニュー。ハンバーグステーキとは驚いた。パンとあるからハンバーガーのような形で食べたのかな、と思う。同日の夕食に「おじや(卵入り)、鮭と玉ねぎ油酢漬、里芋味噌汁、茄子しぎ焼き。」とあり、こちらの方が朝食のメニューに適ってるような気もする。おそらく一日のバランスを見て調整したのだろう。こんな箇所に人間の可笑しみを感じるのは私だけだろうか。
平安寿子『きみよ、幸せに』(「恋はさじ加減」所収)から。「ポテトサラダは好き?」という美果の質問に、年下の水道屋フミオが「ソースをかけて食べるのが好き」と答えた、ソースがけポテトサラダ。大賛成!! 私も大好きだ。頻繁に口にしていると、味に変化を付けたくなるもので、「さて、何があうか……」と頭をめぐらせ思いついたのが、ソースがけポテサラだった。これ、イケますよ!
・堀江セレクト
ソートン・ワイルダー『わが町』から。ドラックストアに立ち寄ったジョージとエミリーが、別々のものを注文しようとしたため、ひとまとめにジョージが注文した、ストロベリー・クリームソーダ(クリームソーダとストロベリーソーダをあわせたもの)。ストロベリー・クリームソーダ! 蠱惑的なこの響き。真っ赤に染め抜いた液体の上部に、白いアイスクリームが島のように浸っているところを想像すると、ああ、飲みたい、いますぐ、飲みたいではないか!
ローレンス・ブロック『殺し屋』から。殺し屋ケラーが「ふたつのドーナツに、コーヒー一杯」で済ませた、ある日の朝食。世の善人はおろか、殺し屋だってきちんと朝食をとるのだ、と妙に感心する。暗殺を使命とする殺し屋が、朝食にふたつのドーナツを黙々と口に運んでいるシーンは、その冷たく暗いイメージに似合わず、どこかチャーミングで微笑ましい。
というように、まことに愉快な一冊なのだが、油断してはならない。なかには作家の本質をズバリ突いたものや、間接的に自身の小説観に触れたようなものまで、とりあげる本によって、両氏がさまざまな表情を見せてくれるのも魅力のひとつ。作品に付随する一コマで、こんな贅沢な一冊が出来あがってしまうのだ。「読まなければ食べられない」と角田さんが述べる通り、本書のメニューを味わった後は、本への旅があなたを待ち受けている。ますます積読山が高くなる、ああ、なんて罪深い一冊なのだ。
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ごめんちゃい。
(2019/11/16)
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- mono sashi2016-11-01 00:03
*薄荷さん
こちらこそ、ご紹介いただきありがとうございます!
たいへん贅沢な読書体験となりましたよ~。
バター醤油スパは自前で拵えたものではなく、
出来合いのものを食べたのですが、
ベーコンとホウレン草の入った具にトッピングとして
刻んだネギと玉子の黄身を落として、いただきました(^^♪クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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- 出版社:プレジデント社
- ページ数:224
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