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有坂汀さん
有坂汀
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本書はノンフィクション作家、石井光太氏が「子殺し」をテーマに、加害者である親たちを3代まで遡り、その生育歴にも鋭く踏み込んでいった一冊です。「石井ノンフィクション」の真骨頂が存分に発揮されております。
殺人・テロリズム・そして児童虐待…。まさにドストエフスキーの小説世界のような「末法」の世の中ですが、本書はノンフィクション作家、石井光太氏が「子殺し」をテーマに「嬰児殺し」の事件として世の中を騒がせた『厚木市幼児餓死白骨化事件』と『下田市嬰児連続殺害事件』と、わが子をなんと、ウサギ用のケージへと押し込めて監禁し、ついには死へと追いやった『足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件』を追ったノンフィクションです。

僕は現在に至るまでに石井氏の著作をほぼ全てに目を通しているわけですが、その一つ一つが尋常ではないほど内容が重いため、読み終えた後はしばらくの間、何も手につかなくなる事が多いわけですが、本書でもご他聞にもれず、最後のページをめくり終えた後は何もすることができず、
「一定の割合で『親になってはいけない人間』って言うのはこの世に存在するんだなぁ…。」
ということを実感せずにはいられませんでした。

本書のなかでは「一家団欒」「ステキな家族」という言葉が「幻想」に思えてくるほど凄まじい話がテンコ盛りでありまして、『厚木市幼児餓死白骨化事件』での加害者の父親は幼少時から重度の統合失調症を患う母親の面倒を見るうちにあらゆることに対して「思考停止」した人間となり、『下田市嬰児連続殺害事件』の母親は祖母の代から3代続くシングルマザーの家計であり、娘がアルバイトを必死でやって稼いだお金を何かにつけて巻き上げてはそれを湯水のごとく使って豪遊を繰り返す。

『足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件』の加害者である父親はその母親が育児に全く関心がなく、児童養護施設に生まれたばかりの子供を預けては、自分の欲望の赴くままに生きている「規格外」な女性でありました。

これらの様子をほのぼのとしたタッチで描くと西原理恵子画伯の『ぼくんち』(小学館)となり、小説世界で表現するなら梁石日氏の『血と骨』(幻冬舎文庫)や『子宮の中の子守唄』(同)の世界になるのでしょう。

そういった家庭環境で育ち、成長して父親や母親になった彼、彼女らが「マトモな」家庭を築いていけるはずがなく…。(1万歩譲って)彼、彼女らなりにわが子を「愛していた」のだそうですが、結末は
「次男をウサギ用ケージに監禁、窒息死させ、次女は首輪で拘束」
「わが子を電気も水も止まった一室で餓死させた」
「奔放な性生活の末に嬰児2人を殺し、遺体は屋根裏へ隠した」
などの陰惨極まりない話へと収斂していったのです。

裁判の席などでも
「何故行政に相談しなかったのか?」
と追及が行われているのですが、(詳細は本人にしか知りようがありませんが)当事者たちにとっては「濁流に流されている」ような日々の中でそのような考えにいたることもできず、さらには自らの窮状を打ち明ける家族、友人、あるいは知人でさえも身の回りにはおらず、じりじりと追い込まれていくプロセスが石井氏の筆で暴かれていくのです。

読んでいるとひたすらむなしさしか心の中に残らないのですが、『エピローグ』で
『予期せぬ妊娠でお困りの方と実子に恵まれないご夫婦を養子縁組でサポートする第2種社会福祉事業の団体(ツイッターのプロフィールより)』であるベビー救済NPO法人『Babyぽけっと』の活動が紹介されており、それが暗闇のなかの一条の光となっておりました。

旧約聖書の『ヨブ記』の3章11ら16節にある

『なにゆえ、わたしは胎から出て、死ななかったのか。腹から出たとき息が絶えなかったのか。なにゆえ、ひざが、わたしを受けたのか。なにゆえ、乳ぶさがあって、わたしはそれを吸ったのか。そうしなかったならば、わたしは伏して休み、眠ったであろう。そうすればわたしは安んじており、自分のために荒れ跡を築き直した地の王たち、参議たち、あるいは、こがねを持ち、しろがねを家に満たした君たちと一緒にいたであろう。なにゆえ、わたしは人知れずおりる胎児のごとく、光を見ないみどりごのようでなかったのか。』

などとは新しく生まれてくる子供たちには味わってほしくないものです。

※追記
本書は2019年1月27日、新潮社より『「鬼畜」の家: わが子を殺す親たち (新潮文庫)』として文庫化されました。
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有坂汀
有坂汀 さん本が好き!1級(書評数:2673 件)

有坂汀です。偶然立ち寄ったので始めてみることにしました。ここでは私が現在メインで運営しているブログ『誇りを失った豚は、喰われるしかない。』であげた書評をさらにアレンジしてアップしております。

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