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ぽんきち
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偉大な皇帝に愛されたプーシキンの曾祖父はどこから来たのか
掲示板:「読書で世界を旅しよう♪ 気球に乗って五週間!!」からの派生読書です(*各国に関連する本を挙げながら世界旅行をしようというものです。先日終了しましたが、さまざまな国に思いを巡らせる好企画として賑わいました。終了後のため、書き込みはできませんが、閲覧は可能ですので、参加されなかった方もご興味あれば覗いてみてください)。

本作は、ロシアの文豪、プーシキンが自らの曾祖父をモデルに書いた、未完の小説です。作品自体は未完でもあり、内容的にすばらしくおもしろいというわけでもない(というか、未完なので判別不能)のですが、プーシキンの曾祖父はどこから来たのか、という幾分おもしろい問題を孕んでいます。
プーシキンの曾祖父・イブラヒムは、ピョートル大帝時代の人です。アフリカの高貴な家に生まれた黒人ですが、子供の頃、何らかの争いの後に、奴隷として売られます。流れ流れて、トルコ・コンスタンチノープルのロシア大使邸で働いていたところ、訪れたロシア大帝ピョートルにその才を見出され、寵愛されるようになります。パリで学んだ後、ロシアに渡り、貴族階級の娘と結婚し、エリート軍人となります。
彼の出自がどこだったのかに関しては、本書のタイトルにあるとおり、エチオピアという説が一応定説のようなのですが、隣国、エリトリアは、「我が国こそプーシキンの曾祖父の故郷」と主張しており、出身地とされる市にはプーシキンの銅像まで建っています(エリトリア大使館HP:プーシキンとエリトリア)。これとは別に、カメルーンが出身地であるという説もあるようです。要は、北アフリカのいずれかの地ではあろうけれども、詳細は不明で、コンスタンチノープル以前の足取りを辿るのはなかなか困難であろうというところです。

本書は未完ながら、欧米では比較的よく知られているそうです。邦題は「ピョートル大帝のエチオピア人」となっていますが、原題は「皇帝の黒奴隷」といったような意味で、差別的な色合いのある語を避けた訳となっています。
本文の後に解説があるのですが、プーシキン自身が曾祖父の故郷をエチオピアと思っていたのかどうかもよくわかりませんでした。

物語は未完ですので、本文80ページ程度でごく短いものです。
前半は、曾祖父イブラヒムがパリ時代、とある伯爵夫人と不義をはたらき、子供までもうけていたという、なかなか大胆な筋立てを含みます。ロマンティックなよろめきドラマにも受け取れますし、描きようによっては心理ドラマになりそうですが、これがどう膨らむはずだったのか、ちょっと興味深いところです。
後半は、ロシアで、大帝がイブラヒムと貴族の娘を娶せようとするお話です。やはり差別感情の残る時代、娘やその家族の葛藤も描かれます。
ピョートル大帝は闊達で才のある、大きな人として描かれています。黒人と貴族を結婚させようとするあたり、当時の風潮であった貴賤結婚への忌避感に挑戦状を叩き付けるようでもあり、聡明で果敢とも取れますし、横暴で大胆とも取れます。いずれにしろ、枠にはまらない「改革者」の雰囲気があります。

さて、この物語が未完となっているのは、プーシキンが書き継ぐのをやめたというよりも、彼が死んでしまったためだと思われます。
プーシキンは、妻に言い寄ってきた将校と決闘し、命を落としているのです。享年37歳。
短い生涯でも数々の名作を残した彼のことですから、長らえれば、本作を完成させただけでなく、多くの作品を生み出していたことでしょう。残念なことです。
やはり決闘で命を落とした数学者のガロアもちょっと思い出しますが、やはり彼も19世紀に亡くなっています。この頃、決闘、流行だったのですかね・・・?


*「三銃士」、「モンテ・クリスト伯」のデュマも黒人の血をひいていますね。少し時代が遡りますが、シェイクスピアのオセローがムーア人というのも黒人と思われます。ヨーロッパと黒人の関わりというのも追ってみると少しおもしろいのかもしれません。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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