ゆうちゃんさん
レビュアー:
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人類の食糧の増産史をまとめた書物。農業には、ふんだんにある炭素の他にリンと窒素が必要で、これらの元素の活用にいかに人類が腐心してきたか、と言うお話。残念ながら環境破壊と農耕の両立の処方までには至らず。
太陽からの程よい距離、炭素や窒素、リンなどの循環するシステムなど地球環境の幸運さについての説明が2章にある。これは自然に手を加えるようになった今の人類でも及ばない分野だ。続いて、本論の農耕に論を進める。人間の創意工夫が、狩猟採取生活から農耕生活への移行をもたらし飢餓を遠ざけたとされるが、付随した問題の方も深刻だった。農耕により土地がやせてしまう問題、農耕に費やす労働力不足の問題などである。土地がやせるとは?実は、都市に住む人間、非農耕生産階級が収穫物を食べてしまう分は、窒素やリンが循環しなくなる。有史以来、食糧増産の律速は、窒素やリンの循環速度だと言うことが判明している。大河のそばで栄えた古代文明は自然と土が入れ替わることで、土地がやせると言う問題を解決出来た。また、労働力の問題も家畜や道具の発明で凌いだ。しかし、これは大いなるジレンマで、そうして問題が解決するとすぐに人口が増えて、飢饉が発生する。これは他の野生種が直面している自然の抑制に過ぎないのだが・・。
近代に入り、窒素やリンの補給は、最初は鳥の糞や生物の死骸を処理して、後には硝石やリン鉱石などを原材料にして化学合成することで一応の解決を見た。労働力不足も、家畜から化石燃料の機械を導入することで同様に解決の方向に進んだ。それでも増える人口に対応するたに、20世紀初頭からは、ダーウィンやメンデルなどが遺伝の特質を解明したことで、品種改良による大量収穫種の選定と普及がなされた。大量収穫種による単一栽培が一般化すると今度は病害虫に弱いと言う問題が起きた。最初は有機合成殺虫剤で対処しようとしたが、耐性菌や耐性虫などの出現、環境破壊などの問題が生じ、この方法は見直しを迫られた。20世紀末には遺伝子組み換えで病害虫に対処しようとしている(が、これも一時凌ぎと言うのが著者の見解)。1960年代、緑の革命と言われる大量収穫種による単一栽培、機械化大規模農業が普及すると、マルサスの人口論に基づく20世紀初頭の悲観論は、ことごとく外れ、貧富の差はあるものの人類全体としては飢餓が解消の方向に向かい、一応食糧問題は解決するかに見えている。
プロローグには、「ヒトを万物の霊長とも、自然を収奪する悪者とも定義しないし、文明化の先に破たんが待ち受けていると主張する積りもない」とあり中立的な立場で書かれた本である。また、第1章末には「過去の文明の崩壊などを短期的な視点で見ると誤った歴史観に陥る。行きすぎは問題の様に見えて、実は転機をもたらす機会だと言うことが理解出来る長期的視点を持って欲しい。これにより極端な楽観論、悲観論とも異なる、次の変化への備えが見えて来る」とある。確かに、食糧増産史、特に問題の解決とそれに付随する問題の発生の繰り返し、はよく理解出来る。しかし、化石燃料も硝石、リン鉱石も有限であることは間違いないし、本書の至るところで述べられている通り、自然は人間より巧みであり、単一種栽培に大きく依存する現在の農業が果たしてどこまで続くかは疑問である。本一冊に人類の食糧問題の解決を求めるのは土台無理な話だが、残念ながら有限な資源からの脱却や病害虫の問題の解決などの論点は、冒頭の「次の備え」も見いだせなかった。方向性としては、全く人為ではなく自然の力を利用した対処法を工夫すべき、くらいの様に思える。この食糧の問題も環境破壊と文明化の相互関係に還元できると思うが、ダイヤモンド氏の「文明崩壊」の末尾読んだ感想と同じく、なかなか答えの見いだせない問題と思うばかりである。
近代に入り、窒素やリンの補給は、最初は鳥の糞や生物の死骸を処理して、後には硝石やリン鉱石などを原材料にして化学合成することで一応の解決を見た。労働力不足も、家畜から化石燃料の機械を導入することで同様に解決の方向に進んだ。それでも増える人口に対応するたに、20世紀初頭からは、ダーウィンやメンデルなどが遺伝の特質を解明したことで、品種改良による大量収穫種の選定と普及がなされた。大量収穫種による単一栽培が一般化すると今度は病害虫に弱いと言う問題が起きた。最初は有機合成殺虫剤で対処しようとしたが、耐性菌や耐性虫などの出現、環境破壊などの問題が生じ、この方法は見直しを迫られた。20世紀末には遺伝子組み換えで病害虫に対処しようとしている(が、これも一時凌ぎと言うのが著者の見解)。1960年代、緑の革命と言われる大量収穫種による単一栽培、機械化大規模農業が普及すると、マルサスの人口論に基づく20世紀初頭の悲観論は、ことごとく外れ、貧富の差はあるものの人類全体としては飢餓が解消の方向に向かい、一応食糧問題は解決するかに見えている。
プロローグには、「ヒトを万物の霊長とも、自然を収奪する悪者とも定義しないし、文明化の先に破たんが待ち受けていると主張する積りもない」とあり中立的な立場で書かれた本である。また、第1章末には「過去の文明の崩壊などを短期的な視点で見ると誤った歴史観に陥る。行きすぎは問題の様に見えて、実は転機をもたらす機会だと言うことが理解出来る長期的視点を持って欲しい。これにより極端な楽観論、悲観論とも異なる、次の変化への備えが見えて来る」とある。確かに、食糧増産史、特に問題の解決とそれに付随する問題の発生の繰り返し、はよく理解出来る。しかし、化石燃料も硝石、リン鉱石も有限であることは間違いないし、本書の至るところで述べられている通り、自然は人間より巧みであり、単一種栽培に大きく依存する現在の農業が果たしてどこまで続くかは疑問である。本一冊に人類の食糧問題の解決を求めるのは土台無理な話だが、残念ながら有限な資源からの脱却や病害虫の問題の解決などの論点は、冒頭の「次の備え」も見いだせなかった。方向性としては、全く人為ではなく自然の力を利用した対処法を工夫すべき、くらいの様に思える。この食糧の問題も環境破壊と文明化の相互関係に還元できると思うが、ダイヤモンド氏の「文明崩壊」の末尾読んだ感想と同じく、なかなか答えの見いだせない問題と思うばかりである。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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この書評へのコメント
- ゆうちゃん2016-08-05 00:05
るびりんぐさん、コメントありがとうございます。将来の方向性について末尾で触れる大方の文明論系の本と同じで、本書ではなんとなく良い方向性を示唆するだけでした。自分が高校生の時は、先進国は無理をして地球資源を収奪しているので、いつかそのひずみが現れる、と習いました。その時はいつか先進国の生活水準も没落する、という風に解釈したのですが、30年以上経って、発展途上国、中進国の生活水準が上がり必要な資源がますます増えました。生活水準が上がる方向で平等化の方向に進んだの良いとしても、そのひずみがどのように出るか、かなり心配です。
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- 出版社:日本経済新聞出版社
- ページ数:336
- ISBN:9784532169817
- 発売日:2016年01月07日
- 価格:2592円
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