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かもめ通信
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アウシュヴィッツに実在した秘密の図書館の物語は、誰一人心から信じることの出来ない過酷な状況においても本への愛と信頼を失わなかった一人の少女の物語でもあった。
世の中に“アウシュヴィッツ”のあれこれを伝える本は沢山あるし
そうした本のいくつかを私もこれまで読んできた。

耳をふさぎ目を覆いたくなる出来事も
後世に伝える必要があることは確かだが
特に伝える相手もいない私自身は
正直もうこういうジャンルは読まなくてもいいかなと思わなくはない。

だがこの本には、心惹かれるものがあった。

というのも、この本が
アルベルト・マングェルの 『図書館 愛書家の楽園』の中で紹介されていた
アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所に実際にあったという
秘密の図書館に関する記述に惹かれた著者が
その実話に基づいて書き上げたフィクションだと聞いたからだ。

1943年、ナチスはアウシュヴィッツ強制収容所を拡張し、
ビルナケウの森に「家族収容所」を設けた。
物語の舞台はこの収容所で、
ここには“三十一号棟”と呼ばれる離れが設けられ、
日中、大人達が労作業に従事している間、子どもだけを集めて収容している。
それは国際監視団に対し、
“ユダヤ人を東部へ送るのは殺すためではない”と
ナチスがアピールするための手段の1つだった。
事実子どもたちは6カ月の間生かされ、
そのあとで他の犠牲者達と同じ運命をたどったのだった。
やがてプロパガンダの役割を終えるとこの「家族収容所」も閉鎖されることになる。

だがそれまでの間、十三歳までの子どもたちは三十一号棟で
収容者の中から選ばれた指導員たちのもとで日々過ごすことになる。
指導員達はそこで看守達の目を盗み“学校”を開き、
子どもたちに禁じられている勉強を教えた。
その秘密の学校にはなんと図書館まであり、
ナチスの目を盗んで密かに持ち込まれた8冊の本が大切に読まれていた。
その貴重な本の保管を一手に任されていたのが
この物語の主人公十四歳の少女ディタだった。

H・G・ウェルズの『世界史概説』、トーマス・マンの『魔の山』、
ハシェクの『兵士シュヴェイクの冒険』などぼろぼろになった8冊の図書館の蔵書と
“生きた本”として貸し出された大人達が語る
『ニルスのふしぎな冒険』や『モンテ・クリスト伯』が
子どもたちだけでなく、
子どもたちの世話を焼く大人たちをも励まし力づける。
もちろんそれはディタにとっても例外ではなかった。
本を読む喜びとかつて読み親しんだ物語たちの記憶に加え、
文字通り命がけで図書係として本を護るという使命が
絶望的な毎日の中でディタを支え続ける。

むごたらしい強制収容所の実態を告発するだけでなく
物語が持つ魅力、本が持つ力を高らかに歌い上げるこの本は
ディタが触れる物語たちへのオマージュにもなっていて
またまた読みたい本のリストを伸ばさずにはいられないが
本の力を信じているに違いない
本が好きなあなたにぜひともお勧めしたい1冊だ。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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